
本コラムでは、大量調理施設衛生管理マニュアルをもとに、野菜の洗浄が必要な理由と具体的な方法を解説します。微生物汚染や異物混入リスク、葉菜・果菜・根菜など分類別の洗浄ポイントも紹介します。
1.はじめに
日本人の野菜摂取の目標量は「健康日本21(第三次)」において20歳以上・1人1日あたり350g以上と定められています。しかしながら、「令和5年国民健康・栄養調査」の結果では平均摂取量は256gにとどまっており、日本人の野菜摂取量は目標量には足りていません。
参照:『健康日本21(第三次)』(厚生労働省)

参照:『令和5年国民健康・栄養調査 結果公表』(厚生労働省)
つまりは今後さらに野菜の摂取量を増していかなければならないのです。
そんな日本人とは切っても切れない関係にある野菜は種類も多く形状も様々で、原産地や流通ルートも多様です。その野菜達はたくさんの工程を経て私たちの食卓にあがります。
今回はその工程の中から必ず実施しているのにあまり知られていない「洗浄」にスポットをあててみます。「そもそも洗浄は必要か?」「必要ならばどうやってやるか」などの疑問に対して大量調理施設衛生管理マニュアルの内容から紐解いていこうと思います。
2.そもそも洗浄とは?
辞書で調べてみると洗浄とは「薬品などで洗いすすぐこと。」と記載があります。
少し専門的に掘り下げると、洗浄とは「対象物からあらゆる異物(血液・体液・有機物など)を除去すること。」とあり、続けて「対象物から異物を洗浄除去しないと、消毒や滅菌の効果が減弱する。」とあります。
参照:『日本環境感染学会教育ツールVer.4 消毒・殺菌・滅菌』(一般社団法人 日本環境感染学会)
これを野菜に置き換えて考えてみます。野菜における異物は文字通り野菜以外の異なる物(土、石、虫等)、食中毒を引き起こす細菌やウイルスなどが考えられます。これらの異物が除去されないとその後の消毒や滅菌(野菜においては殺菌、加熱工程にあたります)に影響がある重要な工程であると考えることができます。
ということはやはり洗浄は必要ということになりそうです。次の項ではもう少し専門的に考えてみます。
3.大量調理施設衛生管理マニュアルでの洗浄とは?
【おさらい】大量調理施設衛生管理マニュアルについては下記の記事にて解説していますのでご覧ください。

上記の大量調理施設衛生管理マニュアルでは野菜・果物の洗浄について重要管理事項として以下の内容が記載されています。
「野菜及び果物を加熱せずに供する場合には、別添2に従い、流水(飲用適のもの。 以下同じ。)で十分洗浄し、必要に応じて殺菌を行った後、十分な流水ですすぎ洗いを行うこと。」
さらに、別添2(原材料の保管管理マニュアル)の「1.野菜・果物」の項には洗浄の工程として、以下の記載があります。

(加熱をして提供する野菜類については⑦の手順を省略することも可能です。今回詳細は割愛しますが、⑦の手順を行う場合は使用する薬剤の種類に注意して殺菌時間、薬剤の濃度などの記録を行います。)
このように大量調理施設衛生管理マニュアルにおいて「洗浄」は「重要管理事項」として扱われています。
ということはやはり洗浄は必要かつ重要な項目ということがわかりました。
それを踏まえて上記の洗浄工程において以下の3つがポイントになると考えられます。
1、「工程①で異常品を厨房内に持ち込まないこと」
2、「洗浄には飲用適の水を使用すること」
3、「工程⑨専用のまな板、包丁でカットすること」
一つ目の「工程①で異常品を厨房内に持ち込まないこと」は実は重要な工程です。異常品すなわち汚染されたものを厨房内へ持ち込むことで完成品の品質に影響を及ぼすことはもちろん、施設、器具、従事者等が汚染されるリスクが発生します。
二つ目の「洗浄には飲用適の水を使用すること」における「飲用適の水」は食品衛生法施行規則に基づき「水道法に基づく水道水や専用水道、簡易専用水道から供給される水」と定義されています。そのためそれ以外の水源を使用している場合には別途水質検査が必要です。
参照:『食品衛生法施行規則』(昭和23年07月13日厚生省令第23号)(厚生労働省)
そして三つ目「工程⑨専用のまな板、包丁でカットすること」で、後述する野菜由来の微生物や異物による交差汚染のリスクを回避することが出来ます。肉や魚など他の食材と器具を分けることはもちろんですが、同じ野菜でもカット後に加熱を行わず提供される野菜については専用の器具を使用されることをお勧めします。
また、工程⑥において「中性洗剤を使用して洗う。」となっていますが実際に使用されている施設は多くないように感じます。その理由として食品用の洗剤を使用しないといけないことや、すすぎ方によっては洗剤が残存するリスクがあること、また現在流通している野菜の衛生レベルが向上していることなどが考えられます。メリットとデメリットを考慮し納入された原材料の状態をみて、汚れや汚染がひどい場合は用法を確認のうえケースバイケースにて使用を検討されるといいかもしれません。
参照:『大量調理施設衛生管理マニュアル』(厚生労働省)
4.大量調理施設での野菜洗浄とは?
ここまでで大量調理施設衛生管理マニュアルに記載されている内容から「洗浄が必要かつ重要であること」はわかりました。しかし「正直大量調理施設衛生管理マニュアルだけではやり方がわからない」と思われた方も多いと思います。特に「④流水で3回以上水洗いする。」の部分は抽象的で、どこまでを「1回洗った」とするのかわかりにくいです。
ここからは大量調理施設衛生管理マニュアルの対象施設における現場での作業として説明していきます。
「流水で3回以上水洗いする。」における1回とは「1つのシンクで洗浄する」と置き換えてみるとわかりやすいです。つまり「1つのシンクでの洗浄を3回行う」ということです。また流水は「水の流れ」ですのでシンクへ水をため続けることでオーバーフローへの水の流れを作り洗浄を行います。以下具体的な手順です。
1、シンク内やシンクオーバーフロー部を清掃する。
2、シンクに水を貯める。
3、水を流しながら野菜をシンクに入れてよく攪拌して洗浄する。
(※野菜によって力加減を調整しましょう)
4、異物や傷みがないか目視で確認をしながらシンクから引き上げる。
(この時にシンク内に浮遊する異物を引き上げないように手もしくは小さめのザルなどを使い少しずつ引き上げることをお勧めします。)
5、シンクの水を抜いて洗浄し、シンクの底に溜まった異物を流す。
6、上記の1~4の工程を3回以上繰り返す。
(1回目の洗浄で大きな汚れを除去、2回目の洗浄で細かい汚れを除去、3回目以降で仕上げ洗いを行い最終確認するイメージです)
※中性洗剤を使用する場合は3回の洗浄終了後に清潔なシンクや容器に規定濃度の溶液を作成して浸漬し攪拌を行い、流水にてよくすすぐ。
施設規模にもよりますが、大量調理施設の準汚染区画には野菜専用シンクが1つ以上設置されていることが多いと思います。シンクを交互や順々に移し替えながら上記の手順を参考に洗浄を行ってみてください。
ここまでの説明で「野菜を切った後は洗わなくていいの?」と疑問に思われる方もいると思います。ここで説明をした工程は野菜を厨房内へ持ち込んで調理をするために必要な最低限の洗浄工程です。
野菜は切り口を一度水に漬けると変色や傷みが進行しやすくなるため上記の方法が推奨されていると考えられます。しかし一部の葉茎菜類などは野菜の構造上切った後のほうが効率的に洗浄することができます。また茄子やゴボウなどアクの強い野菜は色止めのため水に浸して保存しておくこともあります。このように各野菜の特性に応じて作業を選択してください。
「洗浄のやり方はわかったけれどけっこう手間がかかるな」と思った方は少なくないと思います。しかし、洗浄工程は大量調理施設衛生管理マニュアルにおいて「重要管理項目」に指定されるほど大切な項目です。その理由については次の項にて説明します。
5.野菜洗浄で防げるリスクとは?
大量調理施設衛生管理マニュアルではなぜ野菜の洗浄が「必要かつ重要な項目」なのか、野菜を洗浄することで防ぐことができるリスクについて考えてみます。
(1)微生物による汚染
野菜が育つ土壌には微生物(細菌)が存在します。有名なものは土壌に広く分布する「セレウス菌」、動物の糞便をたい肥に利用することで存在する「腸管出血性大腸菌」や「サルモネラ菌」などが存在します。そのため収穫された野菜(特に土物)はこれらの細菌に汚染されている可能性があります。実際に野菜を原因とする食中毒事故の事例も多く発生しています。
有名なところでは汚染経路は不明となっていますが平成8年大阪府堺市で発生した大規模な腸管出血性大腸菌O157食中毒事故において、学校給食で使用されたかいわれ大根が原因食材の可能性として指摘された事例などもあります。野菜そのものだけではなく、洗浄が不十分だと野菜に付着した細菌が持ち込まれ施設内が汚染される二次汚染による食中毒リスクも発生すると考えられます。
参照:『堺市学童集団下痢症の原因究明ー概要』(報道発表資料 96/09/26)(厚生労働省)
(2)土壌由来の異物
畑の土壌由来の異物もリスクとなります。畑の土や石、虫などは家庭で気にされる方は多いと思いますが、大量調理施設も例外ではなく洗浄不足により異物混入事故を招く可能性があります。昨今虫の混入などはSNSで拡散されるレピュテーションリスク(企業の評判や信用が損なわれることで経営に悪影響を及ぼすリスク)もありますので、異物については十分注意が必要です。
その他に土壌由来ではないですが流通の過程で使用された包材(ダンボール、新聞紙等)も施設内に持ち込むと異物になる可能性があるため注意が必要です。
野菜に付着した異物は正しい洗浄工程を行うことで確実に除去することが可能です。しつこいようですが、そのため洗浄工程が重要となります。
ここでは野菜を原因とした異物混入について説明をしましたがその他の異物混入については下記コラムに詳細がありますのでご覧ください。

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6.分類別に考える野菜の洗浄
さて、野菜洗浄やリスクについてひとしきりお伝えをしましたが、ひとくちに野菜と言っても形状は様々です。最後にそれぞれの野菜について形状毎に洗浄のポイントを説明します。
(1)果菜類の洗浄
果菜類は「果実、種実を食用とする野菜」です。代表的なものにきゅうり、ピーマン、なす、トマト、カボチャ、インゲン、枝豆、等があります。
果菜類は表面の構造が比較的シンプルで洗浄が容易な反面、洗浄によって傷みが進行しやすいため洗浄前に傷みや損傷の有無を確認することが大切です。洗浄中に傷みが悪化したり、損傷部分から水が入って内部から傷みが発生したりしてしまうことがあります。とくにトマトやきゅうりなど加熱をせずに食べる野菜は次亜塩素酸ナトリウム等による殺菌工程を行うと、殺菌剤の浸透により品質の劣化が発生するため慎重な取り扱いが必要です。
(2)葉茎菜類の洗浄
葉茎菜類は「葉や茎部分を食用とする野菜」です。代表的なものにネギ、白菜、レタス、キャベツ、アスパラ、ブロッコリー、ほうれん草、小松菜等があります。
葉茎菜類は葉が折り重なったり茎や花が密集していたりと複雑な形状の野菜が多いです。そのため洗浄の前に洗いやすい形に分解することが必要になります。白菜、レタス、キャベツなどは葉を剥がすなどして内部を露出させてから洗う必要があります。ほうれん草や小松菜は茎から根にかけての内部に土や虫などの異物が入っている可能性があるためこれらも葉を剥がすなどして内部まで洗浄をします。
見落としがちなポイントとしてネギの生食(白髪ねぎやトッピングの小口ねぎ等)があります。これらは調理時に加熱されないか、最後に添えるだけで加熱が不十分になりやすいためです。加熱調理用の食材とは分けて殺菌工程を設けることをお勧めします。
(3)根菜類の洗浄
根菜類は「土の中で成長する、茎や根の部分を食用とする野菜」です。代表的なものに人参、大根、たまねぎ、れんこん、ごぼう、芋類等があります。
いわゆる土物と呼ばれる野菜は、土壌由来の汚染をダイレクトに受けています。皮をむく野菜が多いため影響が少ないと考えられるかもしれませんが、洗浄が不十分なまま皮をむく作業をおこなったことにより逆に厨房内を汚染してしまう可能性もあります。まずは、厨房内に持ち込めるレベルまで洗浄します。
洗浄に金タワシを利用される場合があると思いますがあまりおすすめはしません。金タワシ自体が野菜に混入し異物となることや、使用後の管理が難しいことなどが理由です。もし洗浄にタワシを使用する際は金属製以外の物を使い、使用後の洗浄と乾燥を必ず行い劣化が見られる場合には速やかに交換するなど衛生的に管理を行うことが必要です。
長芋や大根は根菜類の中では珍しく「とろろ」や「大根おろし」のように生で喫食されることがあります。基本的には次亜塩素酸ナトリウム等での殺菌工程前は下処理用、殺菌工程後は生食野菜用のように、作業手順と器具の使い分けを意識して作業することが必要です。殺菌工程による品質低下が気になる場合には既製品を使用することも選択肢の一つです。
(4)カット野菜や冷凍野菜について
近年加工技術や流通技術の発展により、洗浄を必要としないカット野菜や解凍してそのまま使用できる冷凍野菜などを見る機会も増えてきました。メーカーが推奨している使用方法で調理や提供を行っていたとしても、事故が起これば提供した責任は問われてしまいます。
効率化や省力化という背景はあると思いますが、納品時の品質確認や開封時の包装材異物混入の防止、使用期限管理、提供前に目視での異物確認を行うなど安全に配慮して使用することが必要です。
(5)きのこは洗う?
家庭での調理ではきのこ類を洗わないことが一般的です。菌床栽培など衛生管理された環境下で収穫され流通していることや、水分を含んで風味の劣化や傷みの原因になるためです。しかし大量調理においては、石づきやおがくずなどの異物除去するため大量調理施設衛生管理マニュアルに従い少量ずつ優しく3回以上洗いましょう。また、洗浄後にきのこ類は傷みやすくなるため調理の直前に下処理を行うなど、作業順序を調整することも効果的です。
7.まとめ|結局野菜の洗浄は必要なの?
最後に、冒頭でもお伝えしましたが野菜は私たちの食生活にはなくてはならない物です。加工技術や流通技術の進化でカット野菜や冷凍野菜なども普及していますが、まだまだ丸野菜で仕入れ、加工されることも多いと思います。技術が進化してもやはり野菜の洗浄は必要かつ重要な項目です。安全な食事だと胸を張って言えるためにも今回の内容を参考に野菜の洗浄を行ってみてください。
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こちらのコラムは コンサルティング本部 西日本グループ 松﨑 孝則が担当いたしました。
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