
規模の大きい飲食店ではほぼ導入されている食器洗い洗浄機(食洗機)。昨今の深刻化する人手不足や物価上昇に伴う水道代・人件費の上昇、厨房スペースの有効活用など、飲食店が抱える問題の救世主として食洗機を導入する企業が増えています。
しかし、食洗機の衛生的な問題の一つにピンク色の汚れ(ピンクヌメリ)があります。拭取ってもすぐにまた現れるあいつは一体何者なのか?どうしたら良いのか?
そんな疑問に関して本コラムでは、その正体と対処法および予防のためのメンテナンスについて紹介していきます。
1.食洗機のメリット・デメリット
食洗機を導入することは、飲食店にとってどのようなメリットやデメリットがあるのでしょうか?
メリットとしては、
① 洗い物にかかる時間が短縮できる、手で洗うよりも節水が可能
② 自動化により他の業務に時間を割けることで人手不足の解消や人件費の削減に繋がる
③ 強い水圧、高温かつ洗浄力の強い洗剤を使用することで手洗いよりも衛生的
反対にデメリットとしては、
①導入にコストがかかる、故障のリスクがある
②場所を取る(追加で給湯設備・カラン・排水溝・コンセント等が必要)
③適切にメンテナンスをしないと逆に汚染の原因となる
などが挙げられます。
このようにコストやスペースが確保できれば、環境面・経済面そして衛生面で食洗機には多くのメリットがあります。
2.食洗機の汚れとピンクヌメリ
そんな便利な食洗機ですが、使用しているとどうしても水垢や油汚れ、石鹸カス、食材カスなどの汚れが生じます。そして使用後の清掃が不十分で水分や汚れが残ったまま不衛生な状態が続くと、食洗機の内部にピンクヌメリが発生してきます。
3.ピンクヌメリの正体
ピンクヌメリはその鮮やかな色合いから、一見すると水垢や石鹸カスの変色に誤認されがちですが、その正体は酵母様真菌(ロドトルラ)や細菌(メチロバクテリウム、セラチア)といった微生物であることが知られています。通常、使用中の食洗機内部は高温・高アルカリ状態であるため、微生物は増殖できません。しかし、使用後に残った汚れは微生物の餌となり、水分もあることから汚れた食洗機の内部は微生物の増殖に適した条件となります。
(1)赤色酵母:ロドトルラ
ロドトルラは別名赤色酵母とも呼ばれ、カビやキノコと同じ真菌類に属しています。形は楕円形で髪の毛の断面の20分の1(短径1×長径10ミクロン)程の大きさをしています。見た目がピンク色に見えるのは、増殖の過程で赤い色素であるカロテノイドを産生するためです。
一般的なカビがコロニーを作るのに5~7日かかるのに対して、ロドトルラは2~3日という驚異的な速さで目視可能な状態にまで増えていきます。他のカビのように根を張ることはないため拭き取れば簡単に取り除くことができますが、発育に適した条件が整うとわずかな栄養でもあっという間に増殖し広範囲へ広がっていきます。
ロドトルラが人体に健康被害を及ぼすことは稀ですが、免疫力の低下した人に感染する日和見感染や、呼吸器系が敏感な方にアレルギー症状を引き起こす事例が発生しています。
(2)メチロバクテリウム、セラチア
他にも水場で増殖し赤色の色素を産生する菌としてメチロバクテリウムやセラチアといった細菌類も知られています。見た目はロドトルラと似ていますが、食洗機の他にも浴室、水道の蛇口、トイレなどで発生し、バイオフィルムを形成します。
これらの細菌もロドトルラと同じく日和見感染の原因菌として知られています。
(3)複雑な微生物環境の形成
ピンクヌメリが発生している環境を長期間放置すると、菌が周辺に広がるだけでなく、他の雑菌を呼び寄せてさらに複雑な汚染状況を作り出すことがあります。そのため、食洗機からは赤色の菌の他にも多種多様な細菌やカビが検出されています。
それらの中には好熱性の細菌やカビなど特殊な環境下で増殖する菌も含まれています。これらはバイオフィルムなどを介して複雑に絡み合い、さらに強固な汚れを形成していきます。
4.ピンクヌメリの落とし方と予防法
ピンクヌメリを落とし、再発生を予防する上で重要なのは「洗浄」「除菌」「乾燥」です。 ピンクヌメリは一度発生すると急速に広がっていき、また掃除がしにくい部分に少しでも残っているとそこから再び広がっていくため、こまめかつ丁寧な清掃が必要となります。
ロドトルラの除菌にはアルコールやカビ用の塩素系漂白剤が効果的です。しかし、食洗機の材質によっては変色や傷みの原因となる他、残留による食器の汚染や他の洗剤との組み合わせなど、使用時には注意が必要です。ロドトルラは水分を好むため、除菌後はしっかりと内部を乾燥させることが重要となります。
一方、メチロバクテリウムやセラチアはバイオフィルムを形成するため薬剤や乾燥に比較的強くなっています。しかし、60℃以上の加熱処理で殺菌効果が認められているため、洗浄後は60℃以上のお湯で洗い流すことが効果的です。
他にも食洗機を利用する際の注意点として、食器の洗浄には必ず食洗機専用の洗剤を使用しましょう。家庭用洗剤は泡立ちが良すぎるため、すすぎ切れず洗剤が残るとそれらは菌にとって栄養源となります。また、食洗機の洗浄には重曹やクエン酸の使用も効果的ですが、溶け残りは同じく菌の栄養源となるため注意が必要です。
5.食洗機のメンテナンス
ピンクヌメリの原因となる菌が発生・増殖する主な条件は「水分」「栄養」「温度」です。これらを適切に管理することで微生物の発生を効果的に防ぐことが可能となります。
日頃のメンテナンスとしては食洗機の使用後は毎日
- ドアを開け十分に乾燥させる
- 残菜フィルターのゴミを捨てる
- 洗浄タンクのお湯を抜く
また、月一回程度を目安に
- 庫内クリーナーを使用して空洗い
- 外側も含めた食洗機全体の拭き掃除(ゴムパッキンやドアの隙間に注意)
- 器具の分解洗浄(特にノズルは見逃しがち)
を行うことが推奨されています。
機種ごとに清掃頻度や方法が異なるため、くわしくは各食洗機メーカーの説明書に従って下さい。
6.きれいな厨房を維持するために
ピンクヌメリはその色の鮮やかさやツルっとした外見から、他の黒や緑色の一般的なイメージのカビと比べて「早く対処しなくては」と警戒する方は少ないかもしれません。また、水垢や石鹸カスなどの「ちょっとした汚れ」と勘違いして放置した結果、気付くと広範囲に増殖していたというケースも多く見られます。
食洗機を衛生的に利用するためには、日頃のメンテナンスが適切に実施できているかどうかの確認、すなわち「衛生管理」が重要となります。
BMLフード・サイエンスでは飲食店やホテル等の厨房に関わる様々な衛生点検業務の実績、豊富な点検知識を保有しており、幅広い業種業態の衛生管理業務を強力にサポートしております。また、検査・品質管理サービスを総合的に提供しておりますので、点検・検査結果を基にお客様に最適なサポートやご提案を長期的な視点で提供することが可能です。
きれいな厨房を適切に維持していくため、ぜひ弊社の衛生点検をご活用ください。
参考文献
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- 業務用ドア型およびコンベア型自動食器洗浄機の細菌汚染の評価
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浜田 信夫,阿部 仁一郎,日本防菌防黴学会誌,Vol.41,No.10,527-534,2013 - Rhodotorula属菌およびSporobolomyces属菌の簡易識別法および抗真菌薬感受性試験の検討
佐子 肇,安井 孝輔,高橋 秀一,医学検査,Vol.72,No.2,197–204,2023 - 食洗機(食器洗い乾燥機)の掃除方法を掃除のプロが解説!
HITOWAライフパートナーズ株式会社 おそうじ本舗


こちらのコラムは 検査本部 大阪グループ 加藤 竜一 が担当いたしました。