
私たち株式会社BMLフード・サイエンスは、日々多くの飲食店や食品工場、給食施設等で厨房の衛生点検や各種検査を実施しています。気温が上昇し始める春先は、冬場のノロウイルス警戒期からの気のゆるみや、新年度に伴う環境の変化などにより、食中毒リスクが潜んでいる時期でもあります。
本コラムでは、2026年春の食中毒発生傾向を統計データから振り返り、原因食品・病因物質・発生施設ごとの課題と、現場で実践すべき具体的な衛生管理対策について解説します。
1.2026年春の食中毒 統計から見る発生傾向
日本国内における食中毒の発生状況は全国規模で調査、取りまとめられており、年間集計と、毎月の速報ベースでの集計が、厚生労働省により「食中毒統計(食中毒統計調査)」として公表されています。今回はこの食中毒統計をもとに2026年春の食中毒を振り返ります。
(1)2026年春はどんな食中毒リスクが目立ったのか
季節的な傾向からノロウイルス食中毒の発生は冬季よりも落ち着き、食中毒発生数、患者数ともに減少傾向をたどりました。しかしながら依然として100名を超える患者を出すノロウイルス食中毒も発生しており、鶏肉の加熱不足や交差汚染に起因するカンピロバクター食中毒も発生しています。大量調理が要因となりやすいウエルシュ菌の食中毒事例も目立ちました。
(2)事件数・患者数から読み解く春の特徴
2023年~2025年の過去実績から見ても春先(3月~5月)は食中毒事件、食中毒患者ともに、冬場のノロウイルスを主な要因とするピークを越えて、減少傾向に入る季節です。


2026年の春先の状況を執筆時点の速報(速報:令和8年8月3日までに厚生労働省に報告のあった事例を集計)で見ると、例年と同様に事件数、患者数ともに減少傾向が見られました(患者数:3月2,443名、4月567名、5月610名/事件数:3月117件、4月55件、5月59件)。1事件あたりの平均患者数で見ても、冬場のノロウイルス食中毒の最盛期に比較すると小規模になりました。しかしながら研修センターで提供された食事を原因とする集団食中毒では100名を超える患者が発生する事例が報告されており、最盛期よりは落ち着いたとはいえ、油断はできないと言えます。
2.原因食品別に振り返る2026年春の食中毒
(1)鶏肉料理
春の宴会メニューとして人気の高い鶏肉料理ですが、2026年春の事例でも鶏わさ、鶏もも肉・むね肉のたたき盛り合わせ、鳥刺し、レア焼ささみといった生・半生メニューだけでなく、加熱不十分な鶏肉による事故が発生しています。鶏肉は高確率でカンピロバクターを保有しているため、中心温度75℃・1分間以上の加熱(または同等の加熱処理)が原則です。特に宴会での繁忙時は調理時間が短くなりがちで、通常のオペレーションを逸脱した加熱不十分な状態で提供されてしまう危険性が高まります。
(2)弁当・惣菜・作り置き食品
春の花見や各種イベントで需要が高まるお弁当・惣菜類では、調理後から喫食までの時間が長くなることがリスクを高めます。大量の料理を前日から仕込む「前日調理」や、加熱後に室温で放置する緩慢冷却(ゆるやかな冷却)は、ウエルシュ菌や黄色ブドウ球菌の格好の増殖環境を作り出します。
2026年春の発生事例でも、弁当や肉じゃがおよびおろし和え(キュウリともやし)を原因食品としたウエルシュ菌やぶどう球菌(食中毒統計の表記に準ずる)の食中毒が発生しています。調理後すぐに冷却を行わなかったことや、陳列後の温度管理(10℃以下または65℃以上)の不備はこれらの直接的な原因となりえますので気温が上昇する春には特に注意が必要です。
(3)刺身などの生の魚介類
春の歓送迎会や各種イベントにおいて刺身やカルパッチョなどの生食用魚介類は欠かせないものとなっています。しかし魚介類においては、アニサキスによる食中毒事例が毎年数多く報告されているほか、腸炎ビブリオなどの細菌増殖リスクや、ヒスタミン食中毒のリスクにも十分注意する必要があります。
2026年春の事例では刺身やしめ鯖、タラの白子などでアニサキス食中毒が発生しています。また、アニサキスと同じ寄生虫に区分されるクドアによる食中毒もヒラメの刺身やヒラメのカルパッチョで発生しています。さらに、春カツオの甘辛煮による化学物質(ヒスタミン)を要因とする食中毒も発生しました。
(4)サラダ・和え物など非加熱食品のリスク
(5)自然毒を含む食材
飲食店での発生事例はほとんどありませんが、春には自然毒を含む食材による食中毒の事件数が増えるのも特徴です。2026年春にもスイセンやフグの卵巣などを家庭で調理し喫食することにより食中毒が発生しています。
3.病因物質別に見る春の食中毒リスク
(1)カンピロバクター 加熱不足と交差汚染
細菌性食中毒の中で発生件数が最も多いカンピロバクターは、少数の菌量(数百個程度)でも発症するのが特徴です。原因の多くは肉類(特に鶏肉)の加熱不足と、生の鶏肉に触れた調理器具や手指を介した「交差汚染」です。生肉専用のまな板・包丁・トングの色分け管理や、取扱い後の徹底した手指洗浄をルール化、加熱する食材については中心温度75℃・1分間以上の加熱(または同等の加熱処理)を実施することが優先課題となります。

関連コラム:カンピロバクター食中毒とは?~鶏肉調理などで気を付けたいポイント~
カンピロバクターは、日本において細菌による食中毒の中で最も発生件数が多い食中毒菌 (年間300件、患者数2,000人程度)となっており、特に注意すべき食中毒菌の一つとされています。今回はカンピロバクターの特徴とその対策方法についてご紹介します。
(2)ノロウイルス 春からも引き続き警戒
ノロウイルスは冬に発生のピークを迎えることが一般的ですが、春先の3月〜4月にかけても依然として高い発生件数を示します。2026年春は発生件数99件、総患者数2,656名で、依然として件数、患者数ともに最も多い原因物質となっています。 卒業・入学・新生活など人が集まる機会が増え、歓送迎会シーズンの繁忙期にはなりますが、従業員の体調管理や検便を実施し、症状があった場合や陽性が判明した場合は調理作業に就かせないことが重要です。症状回復後も1〜2週間程度は便中にウイルスが排出され続けるためすぐに調理作業へは復帰させないようにしましょう。
(3)ウエルシュ菌・黄色ブドウ球菌 大量調理で気を付けるべき特性
ウエルシュ菌は熱に強い「芽胞」を形成するため、通常の加熱調理では生き残り、冷却時の危険温度帯(20℃〜50℃)で増殖します。一方、黄色ブドウ球菌は人の手や鼻腔、傷口に常在し、増殖時に加熱しても分解されない「耐熱性毒素(エンテロトキシン)」を産生します。どちらも大量調理や作り置き時に発生しやすいため、加熱後の迅速な冷却(加熱後は30分以内に中心温度を20℃付近(又は60分以内に中心温度を10℃付近)にすること)が重要となります。
(4)アニサキス・クドア 魚介類の生食での注意
アニサキスはサバやアジ、イワシなどの魚介類、クドアはヒラメ等に寄生する寄生虫です。冷凍や加熱に弱いため、それらの工程がある食材の場合は中心部まで冷凍・加熱することが有効です。一方、冷凍や加熱の工程が無い食材の場合は目視確認をしっかりと行うことが必要です。アニサキスを視認しやすくするライトも市販されており、これらを適切に活用して食中毒の防止に努めましょう。

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4.原因施設別に見る飲食店・食品工場の課題
(1)カフェ・居酒屋 食中毒事故の発生が最も多い業態
食中毒統計によると、飲食店は最も食中毒事故の発生件数の多い施設です。2026年春の3か月では231件の食中毒中137件(59%)が飲食店で発生しています。
カフェや居酒屋では、限られた厨房スペースや少ないスタッフで多様なメニューに対応するため、衛生管理の基本手順が形骸化しがちです。「体調の悪いスタッフが調理場で働く」「生肉を触った手袋のまま器を触る」「冷蔵庫の詰め込み過ぎによる温度上昇」といった、ちょっとした「大丈夫だろう」の積み重ねが食中毒事故に直結します。
(2)食品工場 少しの油断が大量患者を生み出す危険性
食品加工場においては、取り扱う食品の量が非常に大きいため、万が一食中毒事例が発生した場合の影響範囲が広範囲におよびます。実際に2026年春には「製造所」で5件の食中毒事件が発生していますが、患者数は569名であり、平均して114名(他の原因施設の平均は16名)と発生時の影響が大きいことが分かります。
製造所でこの春に発生した事例では、パンおよび菓子パンによるノロウイルス食中毒がありました。2014年には浜松市で学校給食用食パンを1枚1枚、手に取って検品をしたことでノロウイルス食中毒事故が発生しています。今回の事例は原因物質や原因食が酷似しており、このような前例から学ぶ必要性を感じさせる事例となりました。

5.まとめ|2026年春の食中毒 統計から見えた衛生管理対策
(1)春の食中毒統計から見えた品質管理上の注意点
2026年春の統計から見えた、特に注意すべき食中毒は、冬季から継続して発生しているノロウイルス、歓送迎会シーズンで食されることの多い鶏肉でのカンピロバクターや、生魚によるアニサキスやクドア、大量の作り置きで注意したいウエルシュ菌や黄色ブドウ球菌でした。徐々に暖かくなる気候や、歓送迎会などでの繁忙や調理スタッフの入れ替わりなど営業環境の変化により、適切な対応をしなければ食中毒が発生しやすい季節と言えます。
(2)飲食店・食品工場が今後強化すべき管理項目
春の環境変化に適切な対応をすることで、これらの食中毒発生は未然に予防することができます。その中で特に重視すべきポイントは以下の通りです。
1.科学的根拠に基づく温度・時間管理(十分な加熱・加熱後の速やかな冷却)2.交差汚染の物理的防止(器具の色分け・手袋の着用・都度手洗いの実施)
3.衛生教育と標準化(マニュアルの最新化・ルールの徹底)
(3)企業の信頼維持に向けた実践ポイント
食中毒事故が発生した場合、営業停止処分や会社名や店名の公表など、企業の信頼や経営へのダメージは計り知れません。気温が上がり、スタッフの入れ替わりも多く、歓送迎会の繁忙期が訪れる春季は特に、普段からの衛生マニュアルを整備・運用し、日々の記録を保管している環境を作っておくことが重要です。
BMLフード・サイエンスでは、飲食店や食品工場の運営実態に合わせた厨房衛生点検、HACCP導入支援、各種微生物検査、従業員向け衛生教育など、食の安全・安心をトータルでサポートしております。衛生管理体制の見直しや対策でお困りの際は、ぜひお気軽にご相談ください。
参考コラム・文献
- 『令和7年(2025年)食中毒発生状況』(厚生労働省)
- 『令和8年(2026年)食中毒発生事例(速報)』(厚生労働省)
- 『大量調理施設衛生管理マニュアル』(厚生労働省)
- 『輪之内町からのお知らせ』(岐阜県輪之内町役場)
こちらのコラムは 管理企画本部 商品グループ 西宮 永人 が担当いたしました。







