
大量調理を行う飲食店や給食施設で特に注意が必要なものの1つに、「ウエルシュ菌食中毒」があります。 カレーやシチューなどの煮込み料理で発生しやすく、「給食病」とも呼ばれています。
私たち株式会社BMLフード・サイエンスは、日々多くのレストランや給食施設で厨房内の衛生点検を行っていますが、温度管理の不備によるリスクを目にすることが少なくありません。
本コラムでは、ウエルシュ菌の特徴から具体的な予防策まで、現場ですぐに役立つ情報を分かりやすく解説します。
1.ウエルシュ菌とは?その特徴とリスク

ウエルシュ菌は、土や水、人や動物の腸内など自然界に広く存在する細菌です。サルモネラ属菌や腸管出血性大腸菌などの他の食中毒菌とは違った特殊な性質を持っており、通常の調理方法では完全に死滅させることができません。
(1)芽胞の耐熱性と生存能力
ウエルシュ菌の最大の特徴は「芽胞(がほう)」という硬い殻を作ることです。食品安全委員会の資料では、耐熱性芽胞は100℃で1〜6時間加熱しても生き残ると報告されています。 「しっかり煮込んだから大丈夫」という思い込みは危険です。さらに厄介なのは、ウエルシュ菌は酸素が少ない環境を好む性質があります。大きな鍋で作るカレーやシチューの底の方は酸素が少なく、格好の増殖場所になります。 ウエルシュ菌は12〜50℃の広い温度範囲で増殖でき、特に43〜45℃が最も増殖しやすい温度です。加熱後、料理をゆっくり冷ましている間に、芽胞から菌が目覚めて一気に増殖してしまうのです。
(2)エンテロトキシンによる症状と潜伏期間
ウエルシュ菌が体内に入ると腸の中で「エンテロトキシン」という毒素を作り出し、食中毒症状を引き起こします。
主な症状
- 下痢(水様便や軟便)
- 腹痛
- 腹部膨満感
- 吐き気(嘔吐や発熱は少ない)
潜伏期間
食事から6〜18時間後(平均10時間)に発症することが多く、翌日の朝に症状が出るケースが典型的です。症状は比較的軽く、通常1〜2日で回復しますが、高齢者や子どもでは重症化することもあるため油断はできません。
2.ウエルシュ菌による食中毒の主な原因
(1)大量調理と再加熱のリスク
先述のように、「給食病」とも呼ばれているウエルシュ菌食中毒ですが、大量調理の現場で起こりやすい傾向にあります。そのため、1事件あたりの患者数が最も多いことが特徴です。

なぜ大量調理で起こりやすいのか?
- 大きな鍋は冷めにくい
大量の料理は冷却に時間がかかり、危険温度帯(12〜50℃)に長時間とどまります。鍋の中心部は特に冷めにくく、ウエルシュ菌が増殖しやすい環境になります。
- 加熱で他の菌が死滅し、酸素が抜ける
大鍋・大釜での加熱により他の細菌が死滅し、空気(酸素)が抜けた状態になります。これがウエルシュ菌にとって増殖に適した環境を作ります。
- 前日調理・翌日提供のリスク
作り置きを行うことで緩慢冷却が発生し、その間に菌が増殖するリスクがあります。翌日提供時に喫食に適した温度へ加熱する調理加熱では増殖してしまった菌を死滅させることが十分にできません。
(2)発症事例と代表的な食品
よく発生する料理
- カレー、シチュー
- 煮込みハンバーグ
- 肉じゃが、筑前煮
- スープ、麺つゆ
- 大量の炊き込みご飯
厚生労働省の食中毒統計によると、カレーやシチュー、ビュッフェ形式等の作り置きされた食材を喫食することで多く発生しています。特に学校給食、病院、高齢者施設、社員食堂など、一度に多くの食事を提供する施設での発生が目立ちます。

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集団食中毒の原因となる菌の一つに、ウエルシュ菌という菌があります。今回はウエルシュ菌の特徴とその対策方法についてご紹介します。
3.飲食店が実施すべき食中毒予防策
ウエルシュ菌食中毒は、正しい温度管理で確実に防ぐことができます。
(1)調理から提供までの温度管理
加熱時の注意点
- 中心温度を75℃で1分以上
- 大きな鍋は底からしっかりかき混ぜる
- 中心温度計で温度を確認し、記録を残す
食品安全委員会の資料によると、発芽したウエルシュ菌(栄養型)は通常の加熱(75℃・1分以上)で殺菌されるとされています。ただし、芽胞は生き残るため、加熱後の温度管理が最も重要です。
提供時の管理
- 調理後は速やかに提供(2時間以内が目安)
- 保温する場合は65℃以上をキープ
(2)調理後の冷却・保管方法
ウエルシュ菌が増殖しやすい温度帯(12〜50℃、特に43〜45℃)を避けることが最重要です。
- すぐに提供しない場合: 10℃以下に速やかに冷やす
- 温かいまま提供する場合:65℃以上を保つ
(3)調理後の小分けと速やかな提供
効果的な冷却方法
- 小分けにする
大きな鍋から小さい容器に移し替え、浅いバット(深さ5cm以下が理想)に広げて表面積を増やします。
- 急速冷却の工夫
氷水で容器ごと冷やす、ブラストチラー(急速冷却機)を活用する、かき混ぜながら冷やすとさらに効果的です。
- 冷却時間の目安
できるだけ早く冷却を開始し、1時間以内に10℃以下にします。
提供時の注意:
- 作りたてを提供するのが最も安全
- 作り置きは最小限に
- 再加熱する際は鍋底までかき混ぜ、中心までしっかり加熱
4.万が一発生した場合の対応と記録管理
(1)初動対応と保健所への連絡手順
万が一、食中毒が疑われる症状を訴えるお客様が複数出た場合、迅速な対応が必要です。
初動対応のステップ
1.状況の把握 - 症状を訴える人数、症状内容、提供した料理を確認
2.保健所への連絡 - 複数名が同様の症状を訴えた場合は速やかに連絡
3.証拠の保全 - 料理の残り、調理記録、温度管理記録を保管
4.お客様への対応 - 誠実に対応し、医療機関の受診を勧める
(2)衛生管理記録と再発防止策の整備
日常的に記録すべき項目:
- 調理開始・終了時刻
- 加熱温度(中心温度)
- 冷却開始時刻と温度の推移
- 冷蔵庫・冷凍庫の温度
- 従業員の健康状態
これらの記録は、万が一の際に原因究明と対策に不可欠です。私たちの衛生点検では、記録の付け方が正しいか、継続的に実施されているかを確認し、より使いやすい記録様式の提案も行っています。
5.まとめ|ウエルシュ食中毒を防ぐために

(1)日常業務に取り入れるべきポイント
ウエルシュ菌食中毒の予防は、特別なことではありません。食品安全委員会のファクトシートでも、「菌の増殖を抑制すること」及び「再加熱により菌及び毒素を不活化すること」が重要とされています。
今日から実践できる5つのポイント
1.調理後は速やかに提供 - 作り置きは最小限に
2.冷却する場合は小分けにして急速冷却 -1時間以内に10℃以下へ
3.保温する場合は65℃以上をキープ - 温度計で定期的に確認
4.中心温度を測定して記録 - 測定習慣が予防の第一歩
5.前日調理は避ける - やむを得ない場合は急速冷却と適切な保管
農林水産省の資料でも、その日のうちに食べきれる量だけを作るようにすることが推奨されています
(2)従業員教育と衛生意識の継続的向上
食中毒予防は、一人ひとりの意識が何より大切です。
効果的な教育方法
- 定期的な衛生講習の実施(年2回以上)
- 新人スタッフへの温度管理研修
- ウエルシュ菌の特徴と危険性の共有
- 実際の温度測定の練習

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食中毒原因の一つであるウエルシュ菌についてご紹介しましたが、その特徴と発生原因についておわかりいただけましたでしょうか。その発生の場となりやすい大量調理環境では、その多忙さから食品の取り扱いが疎かになってしまいがちになってしまう事は十分に考えられますが、今回ご覧いただいた内容を意識して食中毒防止に繋げていただければ幸いです。
なお、弊社BMLフード・サイエンスでは食中毒をはじめとした食品事故を予防するために多種多様な検査やコンサルティングを行っており、食品に携わる皆様の食の安全安心を全力でサポートしてまいります。お困りの際は是非弊社までお気軽にご用命ください。
詳しくは、「コンサルティングサービス」のページをご覧ください。

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1. 食品安全委員会ファクトシート「ウエルシュ菌食中毒(Clostridium perfringens foodborne poisoning)」令和7年4月11日更新
https://www.fsc.go.jp/factsheets/index.data/factsheets_clostridiumperfringens.pdf
2. 厚生労働省
細菌による食中毒「ウエルシュ菌食中毒」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/syokuchu/saikin.html
食中毒統計資料
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/syokuchu/04.html
3. 国立感染症研究所(国立健康危機管理研究機構 感染症情報提供サイト)
「ウエルシュ菌感染症」
https://id-info.jihs.go.jp/infectious-diseases/clostridium-perfringens-infection/detail/index.html
4. 農林水産省
「煮込み料理を楽しむために〜ウエルシュ菌による食中毒にご注意を!!〜」
https://www.maff.go.jp/j/syouan/seisaku/foodpoisoning/f_encyclopedia/clostridium.perfringens.html
これらの公的機関の情報は信頼性が高く、最新の科学的知見に基づいています。より詳しい情報は各リンク先をご参照ください。
こちらのコラムは 第一コンサルティング本部 東京Aグループ が担当いたしました。
第一コンサルティング本部では飲食サービス、給食、ホテル、冠婚葬祭などの事業を営むお客さまに対し厨房の衛生点検や、品質管理システムの構築支援、従業員教育などのサービスをご提供しています。 年間40,000店舗以上の点検実績をもとにした衛生コンサルティングサービスにより、お客さまと共に消費者の安心と安全に貢献しています。








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