
飲食店を新たに開業する際、味やサービスはもちろん重要ですが、衛生管理はお客様の安全と信頼を守るために欠かせない要素です。食材の取り扱いや調理環境、スタッフの衛生意識は、直接お客様の健康に影響します。適切な衛生対策を講じることで、食中毒のリスクを減らし、安心して利用してもらえる店舗づくりが可能となります。
本コラムでは、法令に基づき、開業前に特に押さえておきたい一般的な衛生管理のポイントをわかりやすく解説します。食品衛生責任者の設置や従業員の衛生管理といった義務事項を整理し、開業前に準備しておくべき、実践的な衛生管理の方法をご紹介します。
1.店舗の施設基準遵守
飲食店を新たにオープンする際、押さえておくべきポイントの一つが施設基準です。飲食店の施設基準とは、飲食店が衛生的に営業するために満たすべき建物や設備の条件を指します。これは、お客様に安全で清潔な食事環境を提供するための最低限のルールです。
なお、飲食店営業、そうざい製造業など、業態ごとに施設基準は異なるため、あらかじめ提供したいメニューや販売したい商品を明確にして所轄の保健所へ事前に相談して、取得すべき許可業種を明確にしておくことが必要です。
以下では、カフェや居酒屋をオープンするにあたり、必要な許可業種である飲食店営業の施設基準を例として紹介します。
(1)調理室と客席の区分
調理室と客席は明確に区分し、調理スペースには仕切りや扉を設けて食材の汚染を防ぎます。
また、施設は外部からねずみや虫が侵入しない構造にする必要があります。
(2)床・壁の衛生管理
厨房は油汚れや水分が残りやすいため、床や壁は清掃しやすい材質で仕上げます。
これにより、衛生的な調理環境を維持できます。
(3)手洗い設備の設置
従業員がいつでも手を洗える専用の手洗いシンクを設置します。
センサー式やレバー式など、洗浄後の再汚染を防ぐ構造でなければなりません。
(4)換気・給排水設備
厨房内の衛生を保つため、換気設備や給排水設備を整備します。
適切な換気と排水により、湿気や汚れの蓄積を防ぎます。
営業許可申請時には店舗の平面図(図面)の提出が必要となり、この図面と実際の施工状況をもとに、保健所担当者が施設基準の適合性を判断します。手洗いシンクの位置や換気状況、調理室の区分、排水設備の構造など、図面と現地を照らし合わせながら、見落としやすい箇所を含めて確認されます。
2.食品衛生責任者の設置
食品衛生法施行規則では、飲食店などの営業施設ごとに食品衛生責任者を選任することが義務と定められています。これは、店舗で衛生的に食品を取り扱い、安全な食事を提供するために必要な人材を確保することを目的としています。
食品衛生責任者は、店舗内の衛生管理を適切に行う中心的な存在です。従業員への衛生教育、食材や食品の取り扱い・保管方法の管理、調理設備や器具、店舗内の衛生状況の確認など、日常の衛生管理全般を統括します。特に、食中毒などの衛生事故を未然に防ぐための役割は重要であり、店舗における衛生管理のリーダーとなります。
食品衛生責任者の資格取得の流れ(一般的な例)
① 食品衛生責任者養成講習会に申し込む
各地域の食品衛生協会などが実施しています。
② 約5~6時間の講習を受講
対面式に加え、オンライン講習を導入している場合もあります。
③ 修了証を受け取り、営業許可申請時に提示または写しを提出する
営業許可の審査で必要となります。
法令遵守と食中毒予防を両立するために、食品衛生責任者の設置は必須となりますので、開業準備の早い段階で受講しておくと安心です。
3.従業員の衛生管理
従業員は食品を直接扱うため、従業員の衛生状態や意識が提供する食品の安全性に影響します。食品衛生法施行規則では、食品を取り扱う者に対して、日々の健康管理や身だしなみの徹底、症状がある場合の調理業務からの除外など、具体的な衛生管理が定められています。これらは、事業者が守るべき義務であり、店舗の衛生環境を整えることに欠かせません。
(1)手洗いの徹底
食品等を扱う従業員は、調理・加工・盛り付けの前後、トイレ後、生肉・魚介類などの生鮮原材料を扱った後には、必ず手洗いと手指の消毒を行います。手洗いは流水と石けんまたは洗浄剤を用いて、十分に洗浄することが重要です。 手洗い手順はマニュアル化し、ポスター掲示や定期教育を通じて従業員に周知徹底しましょう。
(2)健康・体調管理と症状チェック
従業員の健康状態を日々確認し、体調不良や特定の症状がある場合には、食品に直接触れない作業への変更等、調理業務から除外することを検討します。対象となる症状は発熱、下痢、嘔吐、黄疸、腹痛、吐き気、皮膚の化膿性疾患や手荒れ、感染症などです。毎日の体調チェックを行い、上記の症状がある従業員は調理業務から外す等ルールを徹底します。
(3)身だしなみの整備
清潔なユニフォームの着用、帽子やヘアネットの使用、爪を短く整えることは基本的な衛生管理の要件です。装飾品(指輪、腕時計、ピアスなど)の厨房内への持込みを禁止するなど、身だしなみのルール作りが必要です。これにより、食品への異物混入や食中毒菌等の微生物汚染のリスクを抑えることができます。
従業員の衛生管理は、店舗の食品安全を守る上で最も基本的かつ重要な取り組みです。開業前の段階で、具体的なルールや手順をマニュアル化しておくことが不可欠です。これらを事前に整理しておくことで、営業開始後の食中毒や衛生トラブルのリスクを減らすことができます。

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4.食材の管理
飲食店を開業する際には、食材の管理体制を適切に整えることが、基本です。食品衛生法施行規則では、食材の取り扱いや保存、温度管理、交差汚染の防止など、営業者が遵守すべき衛生管理事項が定められており、開業前から具体的な運用方法を整理しておくことが求められます。
(1)仕入れの安全管理
信頼性の高い業者から仕入れ、納品時には鮮度や包装、温度を確認します。
異常があれば使用せず、返品や報告を行いましょう。
(2)食材の保存管理
冷蔵は10℃以下、冷凍は−18℃以下を目安に管理し、毎日冷蔵庫等の温度を記録します。
設備を適切な頻度で確認することで、食材の品質と安全性を維持できます。
(3)交差汚染防止
生肉や未加工の魚介類など、原料状態で食中毒菌等を保有している可能性のある食材と、加熱後の食品や非加熱の状態で提供する食品(サラダ等)は区分して保管します。生肉等の食材は冷蔵庫の最下段に保管するなど、店舗のルールを決めて交差汚染を防ぎます。
(4)調理器具の衛生管理
まな板や包丁は用途ごとに色分けし、調理器具や容器は使用後すぐに洗浄・消毒します。 洗浄・消毒の手順や洗浄するシンクを明確にし、従業員全員が共通の認識で作業できるよう周知します。
これらの管理体制は、営業許可申請や保健所の立ち入り確認でもチェックされるポイントであり、開業前から基準を理解し具体的な運用方法を整えておくことが、衛生的な店舗運営につながります。
5.廃棄物・排水管理
飲食店の衛生管理では、廃棄物や排水の取り扱いが店舗全体の衛生状態に直結します。食品衛生法施行規則では、廃棄物や排水を衛生的に管理し、施設の衛生を損なわないようにすることが義務と定められています。開業前に管理体制を整えておくことで、安心して営業を開始できます。
(1)生ごみ・調理くずの管理
生ごみや調理くずは腐敗が早く、悪臭や害虫の原因になるため、密閉容器で清潔な場所に保管します。
定期的に処理することで、衛生的な店舗環境を維持できます。
(2)その他廃棄物の管理
廃棄物は種類ごとに分別し、衛生的に管理できる場所で保管します。
分別ルールをマニュアル化して従業員全員が共通認識で作業できるようにします。
(3)廃油・産業廃棄物の処理
廃油や一部の産業廃棄物は、自治体の規則に従い、許可を持つ専門の会社に委託して処理します。
開業前に取引予定の会社との契約や回収スケジュールを確認しておくと、営業開始後の混乱を避けられます。
(4)排水の管理
厨房の排水が施設や作業環境に影響を与えないよう、排水溝やグリストラップ等は日常的に清掃を実施します。
衛生害虫や異臭等の発生を防止するため、適切に管理することが必要です。
廃棄物・排水の管理は、店舗の衛生環境を守る基本的な取り組みです。開業前に保管場所や分別・処理のルール、排水管理の手順を整理しておくことで、営業開始後も清潔で安全な厨房環境を維持でき、長期的にお客様や地域からの信頼を守ることにつながります。
6.従業員教育
衛生管理を安定して行うためには、従業員一人ひとりが衛生の重要性を理解し、日常業務で正しく実践できる体制が必要です。開業時に作成する衛生管理計画※をもとに基本ルールを明確にしておくことで、厨房の衛生状態を安定させることができます。
※衛生管理計画については後述
具体的には、手洗いの方法、調理中の衛生管理、食材や廃棄物の扱い、器具の取り扱い、清掃手順、消毒液や洗剤の使い方、体調不良時の対応などを従業員に共有します。調理時の加熱基準や冷却基準等の温度管理や、食物アレルギーへの対応方法も分かりやすく伝えることが重要です。
従業員教育は開業前だけでなく、業務内容やスタッフの変化に応じて定期的に行い、実際の作業を通して指導することでルールを現場に定着させます。定期的な確認と見直しを行うことで、衛生意識を維持できます。
このように、作成した衛生管理計画をもとに日々の業務の中で従業員教育を継続することで、安全で清潔な厨房環境を保ち、お客様に安心して料理を提供できる店舗運営につながります。 従業員へHACCPの教育ができる動画配信教育サービス「LaKeel Online Media Service」のご紹介を行っています。
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7.HACCPの考え方を取り入れた衛生管理
食品衛生法施行規則により、すべての食品関連事業者は「HACCPに基づく衛生管理」もしくは「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」を行うことが義務付けられています。カフェや居酒屋などの一般的な飲食店では、専門的で複雑な管理手法ではなく、「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」を実施することが求められています。これは営業許可の取得や継続においても欠かせない対応です。
HACCPの考え方を取り入れた衛生管理では、「一般衛生管理」と「重要管理」を区別して考えることが基本となります。
(1)一般衛生管理
店舗の日常業務全体を支える基本的な衛生管理であり、すべての工程に共通して行うものです。従業員の健康状態の確認や手洗いの徹底、食材の適切な保管と取り扱い、調理器具や設備の洗浄・消毒、厨房内の清掃や整理整頓、冷蔵庫や冷凍庫の温度管理などがこれに該当します。これらは、無理なく継続できる内容とすることが重要で、衛生管理の基礎となる部分です。
(2)重要管理
食中毒などの事故を防ぐために、特に注意して管理すべき調理工程を指します。たとえば、加熱が必要な食品については中心まで十分に火を通すこと、加熱後の食品を常温で長時間放置しないこと、冷却が必要な食品は速やかに冷やすことなどが挙げられます。これらの管理内容は、店舗の業態や提供するメニューによって異なるため、自店舗の作業内容に合わせて設定することが大切です。
(3)衛生管理の作成と記録
まず衛生管理計画を作成します。衛生管理計画とは、飲食店などで食品衛生を適切に管理するために、誰が、いつ、どの工程で、どのような衛生管理を行うかを整理した文書のことです。一般衛生管理と重要管理のいずれについても、作成した衛生管理計画をもとに日々の業務を確認・記録することが求められます。冷蔵庫の温度確認や加熱調理の実施状況などをチェック表に日付や確認者名を記録することが重要です。記録を継続することで、衛生管理が適切に行われていることを客観的に示すことができ、万が一の際の振り返りにも役立ちます。
このように、HACCPの考え方を取り入れた衛生管理は、一般衛生管理によって日常の衛生レベルを維持し、重要管理によってリスクの高い工程を重点的に管理するという考え方に基づいています。開業前からこの仕組みを理解し、日々の業務の中で実践していくことで、無理なく継続でき、お客様に安心してもらえる店舗運営につながります。

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まとめ
飲食店の衛生管理は、施設・設備の整備から食材・器具の管理、そしてスタッフ教育まで多岐にわたります。これらを適切に整えることで、食中毒や衛生トラブルのリスクを抑え、安全で安心な飲食体験をお客様に提供することができます。そのためにも、開店前の段階で衛生管理を業務としてしっかり組み込み、スタッフ全員が同じ基準で運用できる体制を整えることが大切です。
開業準備の時点から衛生管理を万全にし、安心・安全な店舗づくりを着実に進めていきましょう。
詳しくは、「コンサルティングサービス」のページをご覧ください。








