
2025年1月21日に「第7回食物アレルギー表示に関するアドバイザー会議」が開催され、カシューナッツによる食物アレルギーの症例数が増えていることを踏まえて、消費者庁は2025年度中にカシューナッツを特定原材料に準ずるものから特定原材料へ移行する方針を、ピスタチオについて症例数の増加や輸入量の増加傾向等から特定原材料に準ずるものに追加する方針を示しました。
本コラムでは、アレルギー表示の対象品目、カシューナッツが特定原材料へ移行する方針、ピスタチオが特定原材料に準ずるものに追加する方針が示された背景や今後の動向、食品事業者に求められる対応について、要点をわかりやすく解説します。
1.アレルギー表示の対象品目について
容器包装された食品には、アレルギーの表示義務があります。外食のメニューや対面販売、プライスカードのアレルギー表示については義務ではありませんが、表示する場合には正しく表示する必要があります。アレルギー表示の対象品目には、食品表示基準で表示が義務付けられているもの(特定原材料)と通知で表示を推奨するもの(特定原材料に準ずるもの)の2種類があります。
(1)現在の義務表示(8品目)
食物アレルギーの発症数や重篤度を踏まえ、特に表示の必要性が高い食品としてアレルギー表示が義務付けられている原材料を「特定原材料」といいます。
(対象品目)
卵、小麦、乳、くるみ、えび、かに、そば、落花生

- えび、かに :成人期での新規発症や誤食が多い
- くるみ :近年、木の実類の中でも症例数が増加
- 小麦、卵、乳 :症例数が多い
- そば、落花生 :症状が重篤
これらの理由により表示が義務付けられています。
(2)現在の推奨表示(20品目)
食物アレルギー症状を引き起こすことが明らかになった食品のうち、症例数や重篤な症状が継続して相当数みられるが、特定原材料に比べると少ないものを「特定原材料に準ずるもの」と定め、原材料として含む旨を可能な限り表示するよう努めることが推奨されています。
(対象品目)
アーモンド、あわび、いか、いくら、オレンジ、牛肉、カシューナッツ、キウイフルーツ、ごま、さけ、さば、大豆、鶏肉、豚肉、バナナ、もも、やまいも、りんご、ゼラチン、マカダミアナッツ

(3)アレルギー表示対象品目の変遷
消費者庁は、概ね3年毎に実施している「即時型食物アレルギーによる健康被害に関する全国実態調査」(以下「全国実態調査」)の結果を踏まえて、アレルギー品目の見直しを定期的に行っています。直近では、2023年3月にくるみが特定原材料に移行、2024年3月にマカダミアナッツが特定原材料に準ずるものに追加、まつたけが特定原材料に準ずるものから削除されました。

2.カシューナッツ義務化予定の背景 2025年6月16日現在
(1)「木の実類(ナッツ類)」のアレルギー症例が増加
全国実態調査において、即時型食物アレルギーの原因物質を見てみると、2021年度の調査では木の実類が初めて原因食物の第3位となりましたが、2024年度の調査では13.5%→24.6%とさらに増加し、第2位となりました。
(2)木の実類の中では「カシューナッツ」がくるみに次ぎ2位
木の実類の内訳の上位3品目は、くるみが916例(木の実類中の61.7%)で最も多く、次いでカシューナッツ279例(木の実類中の18.8%)、マカダミアナッツ69例(木の実類中の4.6%)でした。 症例数全体に対するカシューナッツの割合は4.6%で、2024年度の全国実態調査でもくるみに次ぎカシューナッツの症例数が著しく増加しています。
令和6年度 食物アレルギーに関連する食品表示に関する調査研究事業報告書
以上を踏まえ、カシューナッツの症例数の増加が一時的な現象とは考えられないことから、2025年度中に特定原材料へ移行する方針が消費者庁から示されました。
3.ピスタチオの特定原材料に準ずるものへの追加について
2025年6月16日現在
【対象品目として追加する際の考慮事項】
以下①②のいずれかに該当する品目を、流通実態等を加味しながら追加対象品目の候補とします。
① 直近2回の全国実態調査の結果において、即時型症例数*1で上位20品目に入っているもの
② 直近2回の全国実態調査の結果において、ショック症例数*2で上位10品目に入っており、重篤度等の観点から別途検討が必要なもの
*1:原因となる食物を摂取してから主に2時間以内に発症し、皮膚や目のかゆみ、鼻水、呼吸困難、腹痛などを引き起こすアレルギー症状の症例数
*2:*1の症状が複数の臓器や全身に発現し、血圧の低下や意識障害などを伴う状態(アナフィラキシーショック)に至った症例数
直近2回の全国実態調査の結果において、ピスタチオは即時型症例数で2021年度に20位、2024年度に14位という結果であったため、推奨表示(特定原材料に準ずるもの)の対象品目の候補に該当します。

続いて、ピスタチオの流通実態を見てみますと、アレルギー症例数(赤棒グラフ)および輸入量(赤折れ線グラフ)はいずれも増加傾向にあります。

また、ピスタチオを使用した加工食品についての形状の調査結果によると、原型をとどめており、見た目からピスタチオであることが分かる商品は全体の50.6%となっています。その他の2%を除く残りの47.4%の商品が、ペースト状や原材料の二次原料に含まれているもの、粉状のもの、添加物に含まれるものといった、目視では確認が困難なものとなっています。

以上のことから、ピスタチオは、症例数の増加、輸入量の増加傾向、加工食品における使われ方などを踏まえ、特定原材料に準ずるものへの追加候補となっています。
特定原材料に準ずるものへの追加時期については、カシューナッツの特定原材料への移行と同時に行うことが検討されています。
4.アレルギー表示制度改正に向けた今後の対応
(1)2025年度中にカシューナッツが特定原材料に移行予定
現在、加工食品中のカシューナッツを検出するための公定検査の開発が進められており、公定検査法の確立の目途が立った時点で特定原材料へ移行が行われる見込みです。
同時に、ピスタチオの特定原材料に準ずるものへの追加も行われる予定です。
(2)アレルギー品目改正の際の対応は検討していますか?
アレルギー品目が改正されたら食品メーカーや小売業者は、商品の一括表示や製品ラベル、プライスカードの見直しが必要となります。
以下の内容を整理し、計画的に準備をしておくとアレルギー表示の改正後に慌てることなく落ち着いて対応できます。
- 各原料規格書において、
カシューナッツ、ピスタチオのアレルギーの有無を確認しましょう。 - 海外から取り寄せる輸入品の原料規格書は、
木の実類のアレルギー表示としてナッツ類(Tree nuts)等と表記されることが多いため、個々の木の実についてアレルギーの有無を確認しましょう。 - 飲食店や小売店において、
メニューやプライスカード、従業員向けのアレルギー一覧は、対象品目を明確にして最新のものを準備しましょう。
5.まとめ
アレルギー表示の欠落はリコール(自主回収)の届出対象となり、回収には多額の費用がかかるだけでなく、社会的な信頼を失うことにもつながります。また最悪の場合、消費者の健康だけでなく命を脅かしてしまう恐れがあります。
食品表示は、食の安全・安心を守り、食品事業者と消費者をつなぐ大切な情報の架け橋です。消費者が食品を選ぶ際に食品の内容を正しく理解し、安全に食品を召し上がることができるよう、アレルギー表示制度が改正された際は、法令を遵守した食品表示を行いましょう。
BMLフード・サイエンスでは、食品表示の点検・作成だけでなく、食品表示に関するコンサルティングや講習会なども行っております。食品表示に関するお悩みをお持ちの方は、ぜひご相談ください。
詳しくは、「食品表示関連業務」のページをご覧ください。
また当社では、特定原材料、特定原材料に準ずるもののアレルゲン検査も行っています。
- 製品に食物アレルゲンが混入していないか確認したい
- 製造ラインでコンタミネーションがないか洗浄確認をしたい
詳しくは、「アレルゲン検査」のページをご覧ください。

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こちらのコラムは 第四コンサルティング本部 表示グループ が担当いたしました。