
混同され易い細菌とウイルス、どのような違いがあるのでしょうか。
食中毒予防の観点からも、細菌とウイルスの特徴を正しく理解して、衛生管理を行う必要があります。
本コラムでは、細菌とウイルスの構造やそれぞれの増殖方法の違いや、食中毒を起こす細菌とウイルスについて紹介します。
1.細菌とウイルスは全く違う
「細菌」と「ウイルス」は、どちらも微生物*1であり、同じだと思っている方もおられるかもしれませんが、形態、構造および発育の仕方などは全く違います。これらの中には、ヒトや動物に感染症や食中毒を起こすものも多く、食品事業者にとっては衛生管理を行うためにも細菌とウイルスはどこが違うのか、またこれらによる食中毒はどのように発生するのか、その予防方法等を理解しておくことは重要です。
*1 微生物とは、肉眼的には見ることができない『微小な生物』の総称です。原核生物に分類される細菌と、真核生物に分類される真菌と原虫があります。ウイルスはどちらにも分類されません。
(1)細菌とは
細菌は、単一細胞の微生物であり、数μm~数10μmの大きさで、光学顕微鏡により観察することができます。これらは土壌、河川・海洋などの自然界に広く分布しており、ヒトや動物・鳥などに危害を与える病原菌、また納豆などの発酵食品や乳酸菌飲料に使用される有益な菌もあります。
この他に、ヒト・動物の体表(皮膚)、口腔内および腸管内に多数棲息し、外部からの病原菌の侵入・感染を防除するバリアの役割を有している『皮膚、口腔、腸管 常在菌』と呼ばれる菌があります。
(2)ウイルスとは
ウイルスは、細胞の構造を有しておらず、核酸とカプシドと呼ばれる蛋白質の殻で構成されている極微小粒子(数nm~数100nmの大きさ)です。光学顕微鏡では観察することができず、電子顕微鏡でしか見ることができません。
ウイルスは、人工培地や食品中では増殖することができません。生きた細胞内でしか増殖できず、ヒトや動物の宿主細胞内で自己複製により増殖されます。これらの中には、ヒトや動物に病原性を有すウイルスも多くあり、特に秋季〜冬季に感染症や食中毒として多く見られるノロウイルスは、食品製造業や取り扱い事業者にとって、衛生管理を行う上で重要な課題です。
2.細菌とウイルスの相違
(1)増殖
細菌が増殖するには、栄養・水分・温度の3つの要件が必要であり、栄養分としてはタンパク質などの窒素原(N₂)を必須とします。水分は、食品などにおける微生物が利用できる水の割合:水分活性(Aw)が、細菌は普通0.90以上でないと発育できませんが、食中毒を起こす菌の多くは0.94以上です。また発育温度域としては、食品の腐敗を起こし易い30~40℃で発育良好な中温菌、冷蔵庫など(10℃以下)の保存でも発育する低温菌、さらに高温(50℃以上)で発育する高温菌などに分けられます。
細菌にとって最も発育し易い温度域を至適発育温度と言い、数十分に1回分裂(大腸菌などの腸内細菌科では20〜30分、ブドウ球菌で30〜40分、腸炎ビブリオは約10分に1回分裂)し増殖をします。一般的に食品や食材は栄養・水分を有しており、細菌汚染されている食品や食材を室温(30~35℃)に放置すると、急速に増殖します。これらを防ぐには、冷蔵庫や冷凍庫にて保管する必要があります。
一方、ウイルスは生きた細胞内でのみ増幅するので、食品・食材では栄養分、保存温度に関係なく増殖することはありません。ノロウイルスは、ヒト体内に侵入した場合、腸管細胞内で増殖し、下痢や嘔吐などの症状を呈します。
ウイルスは感染した宿主細胞内でカプシドが壊れ(脱核)、内部の核酸が放出され、一気に数を増やして放出(一段階増殖)をします。また、ウイルスは細胞内で一度分解されるため、ウイルス粒子が再構成されるまでビリオン(完全な粒子構造を持ち感染性を有するウイルス粒子)が存在しない期間(暗黒期)があります。
暗黒期ではウイルスを検出することはできず、その期間はウイルスや宿主細胞の種類にもよりますが、数時間から十数時間といわれています。インフルエンザや新型コロナウイルスに感染後、発症初期の検査では陽性反応が見られないことがあるが、これは暗黒期の時期であると言われます。この暗黒期には、どんなに感度の高い遺伝子増幅検査でも検出されません。
(2)細菌とウイルスの構造
細菌は、一般に強固な構造を示す細胞壁を有し(細胞壁を有さない菌もあります)ており、その形状は桿菌、球菌(ブドウ球菌や連鎖球菌など)、らせん菌(カンピロバクターなど)に分けられます。基本構造としては、細胞壁と内側の細胞膜に囲まれている細胞質、その中に核酸を有しています。この他、桿菌の中には運動器官の鞭毛を有すもの、さらに細胞壁の外側に莢膜(菌の病原性に関与)を形成するものがあります。
ウイルスは、他の微生物と大きく異なり、細胞壁・細胞膜・細胞質・核酸を有しておらず、単純構造の粒子です。その構造は、遺伝子の核酸(DNAまたはRNA)の周りを蛋白質の殻(カプシド)が包んでいます。また、ウイルスの種類によっては、その外側に脂質と糖タンパクの被膜(エンベロープ)を有しています。
(3)核酸の保有
細菌はゲノムとしてDNAとRNAの両方を有しているが、ウイルスは種類によってDNAかRNAのどちらか一方の核酸を有しています。DNA(デオキシリボ核酸)は遺伝情報を担い、RNA(リボ核酸)は主にDNAの遺伝情報をもとに蛋白質合成を行っています。
ウイルスは、保有する核酸の種類によってDNAウイルスとRNAウイルスに大別されており、さらに核酸が一本鎖か二本鎖かなどによって細かく分類されています。
(4)エネルギー産生能・代謝能
細菌は、エネルギー産生として酸素を使って、有機物から多くのエネルギーを取り出す呼吸【好気呼吸】、酸素を使わずにエネルギーを産生する【嫌気呼吸】、さらに酸素のない環境でエネルギーを得る【発酵】があります。細菌が増殖を行うのに必要なエネルギーの獲得や、必要な有機物を合成するための菌体内で起こる生化学反応を代謝と言います。
ウイルスは、細菌のように栄養を取り込み、自分自身でエネルギー産生を行うことはできず、代謝を行うことはできません(代謝は宿主細胞に完全に依存し、宿主細胞の中でのみ増殖が可能です)。

3.食中毒を起こす細菌とウイルス
食中毒の原因物質としては、細菌、ウイルス、寄生虫、化学物質、自然毒などが知られていますが、わが国では発生件数、患者数ともに細菌とウイルスによるものが最も多く見られます。また近年では、寄生虫のアニサキスによる事例が多くみられています。 細菌性食中毒は、高温多湿な梅雨の時期から夏季にかけて多く発生しますが、ウイルス性食中毒は低温・乾燥している冬季に多く発生する傾向があります。
細菌性食中毒は、発現機序により感染型と毒素型に分類されています。感染型は、食品と共に取り込まれた病原菌が腸管内で感染・増殖する食中毒であり、これらの食中毒菌としては、カンピロバクター、サルモネラ菌、病原大腸菌、ウエルシュ菌など多くの菌が属します。これらの感染型食中毒菌は、腸管内で菌の増殖が必須であり、発症までの潜伏時間(潜伏期)は8〜24時間以上と長時間を要しますが、数時間で発症する場合もあります。
一方、毒素型は、食品を汚染した菌が増殖し産生した毒素を摂取することにより発生する食中毒で、これらの原因菌としては、黄色ブドウ球菌、セレウス菌などによるものが多く見られます。これらの毒素は耐熱性であり、加熱調理された食品でも毒素は残存し、食中毒を起こします。毒素を直接摂取することから、潜伏期間は30分~6時間と短いです。
ウイルス性食中毒としては、ノロウイルスによるものが最も多く、その他ロタウイルス、AやE型肝炎ウイルスなどが見られます。これらのウイルスは、感染すると体の中で増殖してから発症するため、潜伏期は長時間を呈します。
4.最後に
食品の安全性確保には、食中毒や感染症を起こす細菌やウイルスの特徴を十分に理解し、衛生管理を行うことが大切です。
細菌とウイルスはいずれも微生物と言われていますが、大きさ・構造および増殖の仕方は大きく異なります。細菌は食品や人工培地中で増殖ができますが、ウイルスは生きた細胞内でしか増殖することができず、食品中では増殖することができません。
細菌による食中毒は、気温や湿度が高く、細菌が発育しやすい春~初秋に多発します。これに対し、ウイルスによる食中毒、特に発生事例の多いノロウイルスは低温や乾燥の条件下で長期間生存し、乾燥した空気中に浮遊しやすい低温時期の晩秋~春先に多く見られます。また、下痢が治癒しても腸管内に長期間生存することが知られており、食品の製造、取り扱い従事者は、十分な注意が必要です。
BMLフード・サイエンスでは、食品従事者を対象とした腸内細菌検査とノロウイルス検査を行っております。また、食品微生物検査・環境検査・飲食店厨房の衛生点検など食品業界向けの総合コンサルティングも行っております。 飲食店やホテルなどを経営・運営をされている方、および従業員の検便検査や食品衛生に関するお悩みをお持ちの方は、是非ご相談ください。

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参考図書・文献
・最新臨床検査学講座 臨床微生物学 第2版 医歯薬出版株式会社
・臨床微生物検査技術教本 第2版 丸善出版株式会社
こちらのコラムは 検査本部 札幌グループ が担当いたしました。
検査本部では全国4か所の検査拠点にて腸内細菌検査、食品微生物検査、食品理化学検査サービスの提供を行っています。 国内最大級の検体処理数の腸内細菌検査をはじめ、お客さまのニーズに応じた迅速・正確な検査の実施により、お客さまに信頼され、選ばれるサービスの提供を行っています。
このコラムの監修者

品川 邦汎(しながわ くにひろ)
株式会社BMLフード・サイエンス 顧問
岩手大学農学部 名誉教授
大阪府立大学農学部獣医学科卒業後,大阪府立公衆衛生研究所研究員を経て岩手大学農学部獣医学科助教授・教授,農学部附属動物医学食品安全教育研究センター長.2009年岩手大学より名誉教授,大阪府立大学より農学博士授与(1981年)
役員:
日本食品微生物学会名誉会員,日本獣医公衆衛生学会 元会長(日本獣医公衆衛生学会学術賞を受賞) 東北食中毒研究会 元副会長, 日本食品衛生学会 元会長
主な委員:
現・厚生労働省厚労科学研究評価委員
元・厚労省厚生労働省 医薬食品衛生審議会委員,食品衛生分科会 食中毒部会長,内閣府食品安全委員会委員(微生物部会副委員長)および岩手県食の安全安心委員会委員長等を歴任
執筆:
[食品衛生検査指針](日本食品衛生協会,2018年)
[食品安全の辞典](日本食品衛生学会,2009年)
「生肉と食中毒」(日本食品衛生協会,2011)
「食中毒予防必携第2版」(日本食品衛生協会,2007)









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