
2020年6月から施行された食品用の器具・容器包装に関するポジティブリスト制度は、5年間の経過措置期間を経て、2025年6月1日より完全施行されました。完全施行に伴い、ポジティブリストの改正も行われています。
さらに、ポジティブリスト制度とその他の規格基準の整合性を図ること等を目的に、食品、添加物等の規格基準の一部改正も告示されています。
1.ポジティブリスト制度とは?
ポジティブリスト制度とは、あらかじめ安全性が確認された物質をリスト化し、該当する物質のみを使用可能とする制度です。リストにない物質は原則使用できないため、安全性が高まる制度といえます。
そもそも食品衛生法では、器具・容器包装から食品に有害物質を移行させないように、食品、添加物等の規格基準(昭和34年厚生労働省告示第370号)が定められています。この規格基準には、従来から食品衛生法検査として知られている材質別規格をはじめ、用途別規格、製造基準などが定められており、ポジティブリスト制度も、この規格基準の一部として制定されました。
ポジティブリスト制度の導入後も、材質別規格(検査確認)や用途別規格を含めた規格基準全てに適合する必要があるのです。

2.ポジティブリスト制度の対象
(1)対象となる材質
ポジティブリストの対象となるのは、『合成樹脂』と定められています。ここでいう合成樹脂には、以下の3区分が該当します。

《その他、対象外の物質》
- 無機物質
- 天然物(ロジン、ナフサ等の抽出物、蒸留物等を含む。ただし、特定の成分のみを精製して得られた物質および類縁物質群を除く。)
- 天然物の化学反応物(化学修飾処理されたセルロースを除く。)
- 器具、容器包装から放出され、食品に移行して作用することを目的とする物質
- 帯電防止、防曇等を目的として、器具・容器包装の原材料等の表面に付着させる液体状または粉末状の物質
- 原材料に含まれる物質が化学的に変化して生成した物質
- 最終製品に残存することを意図しない物質
- 着色料(一般規格で規制)
(2)器具・容器包装の範囲
食品用器具・容器包装は、食品衛生法第4条で、次のように定義されています。

いずれも『食品や添加物と接触する部位』『食品や添加物に混和する恐れのある部位』が対象です。


3.事業者が実施するべき取り組み
(1)製造管理
ポジティブリスト対象となる器具・容器包装を製造する事業者は、一般衛生管理及び適正製造管理の基準を遵守する必要があります。
(ポジティブリストの対象外となる、合成樹脂以外の物質を使用した器具・容器包装を製造する事業者は、一般衛生管理の基準のみを遵守する必要があります。)
●一般衛生管理:器具・容器包装が適正に製造されるよう、施設の内外の清潔保持その他一般的な衛生管理に関すること
●適正製造管理:食品衛生上の危害の発生を防止するために必要な適正に製造を管理するための取組に関すること
参照:【別添】(製造管理)健生食基発第4号・健生食監発第4号都道府県宛て
(2)情報伝達
ポジティブリストの対象となる器具・容器包装を販売、製造、輸入する場合、ポジティブリスト適合の情報を伝達しなければなりません。伝達方法の規定はありませんが、事後確認ができることが求められており、書面や電子データで保管する必要があります。

(3)営業の届出
ポジティブリスト対象の器具・容器包装を製造する事業者は、道府県知事(管轄の保健所)への届出が義務となっています。
参照:【別添】(営業)健生食基発第10号・健生食監発第10号都道府県宛て
4.ポジティブリスト制度導入に伴う、食品、添加物等の規格基準の一部改正
2025年5月30日に、食品、添加物等の規格基準の一部改正が告示されました。 ポジティブリスト制度と、その他の規格との整合性を図ることや、多様な合成樹脂の使用を可能とすることを目的とした改正とされています。
(1)主な変更点
D 器具若しくは容器包装又はこれらの原材料の材質別規格の改正
- 一般規格に、総溶出物の規格を新設
(別規格が設定されている合成樹脂製の器具又は容器包装を除く) - 一般規格から過マンガン酸カリウム消費量を削除し、個別規格に移行
(フェノール樹脂、メラミン樹脂又はユリア樹脂を主成分とする合成樹脂製の器具・容器包装を除く)

E 器具又は容器包装の用途別規格の改正
食品毎の容器包装の規格を削除し、ポジティブリスト制度と材質別規格での管理に一本化する
※2:「乳及び乳製品の成分規格等に関する省令及び食品衛生法施行規則の一部改正について」
【参照】令和6年3月19日健生発0319第 8号厚生労働省健康・生活衛生局長通知
溶出試験における試験溶液の調製法の改正
- 食品疑似溶媒の整理

- 使用温度が100℃を超える試料の溶出温度について 水および4%酢酸を試験溶液とする場合の溶出温度が95℃から90℃に変更
機器分析による試験法の通知化
機器分析による試験法は通知で定め、当該試験法と同等以上の性能を有すると認められる試験法によっても試験することができる
(2)改正のタイムスケジュール

※3:施行前から改正後の規格を採用することも可となっています。ただし、部分的な変更は認められていない。
部分的な変更の例:過マンガン酸カリウム消費量試験については改正後の規格に従って試験せずとしながら、総溶出規格については施行前であることから試験を実施しないということ。
5.おわりに
食品用の器具・容器包装を取り扱うときには、ポジティブリスト制度をはじめとした規格基準への適合が必須となります。ポジティブリスト制度は「合成樹脂」のみが対象ですが、ガラスや陶磁器、合成ゴム等にも、それぞれ守らなければいけない規格基準があります。
また、食品衛生法以外にも、強度や用途に応じた安全性及び性能確認を行うことや、適切な表示を行うことが重要となってまいります。
当社では、商品に応じた検査項目のご提案をはじめ、表示の確認等、コンサルティングサービスから検査まで承っております。その他、品質管理ご担当者様や店頭スタッフ様向けに講習会のご依頼も承っておりますので、どうぞお気軽にご相談ください。
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こちらのコラムは 第四コンサルティング本部 商品グループ が担当いたしました。