
飲食店で起きる事故やクレームというとどのようなものが思い浮かぶでしょうか。食材に付着している細菌やウイルスによっておきるおう吐や腹痛といった食中毒や、調理器具の破片や毛髪が入っていたなどという異物クレーム、漂白中などの薬品入りの水などといった意図しないものの誤提供、など様々なものが考えられると思います。
今回は、「持ち込み禁止品」に注目してこれらの物品がどのように事故の原因になるか、そしてどのように管理していくべきかを前編・後編に分けてお伝えします。
1.飲食店における持ち込み禁止の基本と衛生管理上の重要性
飲食店で「持ち込み禁止品」のルールがあるのは、クレームや事故の原因になるためです。東京都保健医療局が公開している東京都内で起きた施設別苦情件数を見てみると、令和6年度は4,373件中2,968件が飲食店で起きており、増加・高止まり傾向にあります。
参照:『⾷品安全アーカイブズ』(東京都保健医療局)
中でも異物に着目すると303件と飲食店に関する苦情の1割が異物に関することが分かります。
参照:『令和6年度 苦情処理状況』(東京都保健医療局)
さらに、こちらは苦情・相談をした件数のみのカウントになるので実際にはこれ以上の異物混入クレームがあったと想像ができます。「持ち込み禁止品」としてモノの持ち込みを制限することは異物による事故を減らすことに繋がります。

<図1 東京都内の直近4年間の施設別苦情件数 (東京都医療局ホームページより作成)>
(1)持ち込み禁止が求められる法的背景と保健所の指導基準
持ち込み禁止にすべき、という判断が必要になる背景を見ていきましょう。わかりやすく「○○を持ち込んではいけません」と明文化された法律はありません。しかしながら食品衛生法第6条二項には『有毒な、若しくは有害な物質が含まれ、若しくは付着し、又はこれらの疑いがあるもの。』を販売してはならないとあります。
また、「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理のための手引書」には「従業員の健康管理・衛生的作業着の着用など」の項目に『装飾品を外し忘れたままでの調理作業などは、食品が有害な微生物に汚染されたり、異物混入の原因になったりする可能性があります。』とあります。
参照:『HACCPの考え方を取り入れた衛生管理のための手引書』(厚生労働省)
また、保健所の査察に使用されている「食品衛生監視票」では8番に『不必要な物品を置いていない』や、27番に『食品取扱者は不衛生な行動をしていない』とあり、調理販売に不要なものの持ち込みや装飾品等の取り外し、喫煙を行わないなどを確認することになっています。このように明文化されていなくても、異物混入や食品を汚染する恐れのあるものは持ちこまないことが重要であることがわかります。
参照:『食品等事業者の衛生管理に関する情報』(厚生労働省)
(2)食中毒リスクと異物混入事故を防ぐための持ち込み管理
「持ち込み禁止」という判断が食中毒リスクや異物混入を防ぐためにあることはお伝え出来たかと思います。ここで一度異物とは何か考えてみましょう。異物とは食品中に存在する「本来その食品を構成している成分以外のもの」すべてです。つまり、毛髪やプラスチック片だけでなくうろこや骨片、焦げも提供商品に混入していれば異物混入事故となります。
また、どんなに清潔にしていても細菌やウイルスが付着していない状態を維持することは現実的に不可能です。持ち込んだモノを置いた作業台から食器具や調理道具に汚れや細菌が付着して食材を汚染する可能性があります。こういった状態を防ぐためにも、飲食店に持ち込むモノに制限をかけることは重要です。
(3)品質管理担当者が押さえるべき衛生管理のポイント
「持ち込み禁止」というルールを浸透させるために品質管理担当者が押さえるべきポイントは、
- なぜだめなのかを理解させること
- 何を持ち込んではいけないのかを明確にすること
- 持ち込み禁止品をどこで管理するのかを決めること
の3点です。
『なぜだめなのか』については先ほどお伝えしたように食中毒リスクと異物混入事故を防ぐためです。具体的な持ち込み禁止品と持ち込み禁止品をどのように管理するかについては次章以降で深堀りしていきます。また、「持ち込み禁止」は従業員のみならず、食材を納品する業者や清掃業者、喫食されるお客様に対してもお願いしていくものになります。こちらに関しても後ほどポイントをお伝えします。

関連コラム:【飲食店向け】異物混入を防ぐ実践対策|2026年最新版
異物混入を防ぐためには厨房ごと、業態ごとの特性に応じた対策は必要ではありますが、本コラムではどの厨房でも実施いただける対策の考え方をリスクと共にご紹介させていただきます
2.従業員の私物持ち込み禁止ルールと具体的な持ち込み禁止品
ここでは、従業員向けになぜ私物の持ち込みがだめなのか、具体的に何を持ち込んではいけないのかをお伝えします。
(1)作業場への私物持ち込みが危険な理由
厨房内への私物の持ち込みが危険な理由は、異物混入と食中毒発生リスクを高めるからです。ここで、世界各国で実施された携帯電話の微生物汚染状況をまとめたアメリカの研究結果をご紹介します。この研究によると、56件の研究報告のうち54件で何かしらの細菌が検出されたとあります。
特に黄色ブドウ球菌と凝固酵素陰性ブドウ球菌が一番確認されており、黄色ブドウ球菌が原因の食中毒も多数発生していることを鑑みても、私物の持ち込みが食中毒リスクを高めることがご理解頂けたと思います。また、厨房内への持ち込み禁止品を明確に設定していればお客様から異物の申し出があった際にも理由を添えてお伝えできます。
参照:Mobile phones represent a pathway for microbial transmission: A scoping review(National Library of Medicine)
(2)持ち込み禁止にすべき私物の具体例
ここからは厨房内に持ち込みを制限すべき私物を具体的に見ていきたいと思います。もちろん、ここで提示したものがすべてではありませんので会社の特性に合わせて持ち込み禁止の私物を決めていただければと思います。
タバコ・ライター・鍵・アクセサリー類
まずは、たばこやライター、鍵、ピアスや指輪、ネックレス等です。特にタバコは健康被害が起きやすく、アクセサリーに関しては口に入った際に硬質異物としてけがをする恐れがあります。ネイルチップやマニキュアも剥離して混入しやすい物質です。
ペン・鉛筆・クリップなどの文房具
続いて、キャップ式のボールペンやシャープペンシル、クリップ等の文房具です。私物としての持ち込みだけでなく、納品書についている小さいクリップやホチキスの針、厨房内で作業メモを取る鉛筆等も異物として混入するリスクがあるため注意します。
食材に入ってしまっても完成前に気が付き取り除くことができるかという基準で考え、完成前に気が付けないような細かい部品が出ないものを選び、厨房内では異物リスクの低い指定の文房具を使用します。他にも掲示物を貼るマグネット等も大きいものを使用する、紙などはラミネートして細かい紙片が出ないようにするとさらに整った厨房となります。
個人用スマートフォンや財布
個人のスマートフォンや財布、腕時計、目薬やハンドクリームも持ち込むべきではない私物です。先ほどご紹介した携帯電話の汚染状況にもあったように、これらを持ち込むと細菌を作業場に広げることになります。
3.外部からの持ち込み禁止品と異物混入対策
作業場に異物・汚染源を持ち込む恐れがあるのは、従業員だけとは限りません。納品される容器に付着してくる場合や、機械類メンテナンス業者が立ち入る場合もあるかと思います。外部からの持ち込み禁止品と異物対策についてお伝えします。
(1)ダンボール箱の持ち込み禁止と納品時の対応
作業場に持ち込まれるモノの中で異物混入リスクの高いものの一つにダンボールがあげられます。ダンボールは水分を含むと劣化しやすく、破損し異物源になります。また、ダンボールそのものが害虫の住処になるため厨房にあること自体がリスクになります。ですので、再利用をしないことはもちろん、ダンボールに入って納品されたものは直ぐに中身を出し、ダンボールは廃棄することが重要です。どうしてもすぐに中身を出せない時などは、調理エリアには持ち込まずに一時保管し、作業場内でのダンボール保管時間を短くしましょう。また、食材入りのダンボールごと清潔なビニール袋等で覆ってしまうことも一次的な管理としては有効です。
また、ダンボールだけでなく発泡スチロール箱や新聞紙も劣化しやすく、害虫・害獣の住処になってしまうので持ち込みを避けましょう。納品業者と交渉をし、納品方法自体をダンボールや発泡スチロール箱を利用した納品から、プラスチックコンテナによる納品に変更してもらうことも対策として有効です。また、点検や修理で厨房に立ち入る外来者の持ち込み品は、事前確認を徹底し、退店時に数や形状に変化がないのか確認をしましょう。
(2)害虫・害獣の侵入を防ぐ搬入口管理
持ち込み禁止品とは直接の関係はしないものの、食品の異物混入を予防するうえでは害虫や害獣の侵入を防ぐことも必要です。そのためには搬入口の管理が重要となります。搬入口は食材の納品やゴミ出しで頻繁に開閉されます。つまり搬入口が適切に管理されていないと、害虫や害獣の侵入経路になってしまいます。
対策の1つ目は開放状態で放置しない、です。害虫や害獣はわずか数センチの隙間から侵入してきます。人が搬入口から離れる際は小まめに扉を閉めることを徹底しましょう。2つ目は搬入口の環境を衛生的に保つことです。害虫は湿気と食材残渣をエサに集まるので誘引する原因を作らないよう、水分や食材残渣は毎日きれいに清掃をし、厨房内はできる限りドライな状態を維持しましょう。

4.厨房内での持ち込み制限と整理整頓の実践
先ほどまでは持ち込み禁止の観点で異物混入や微生物汚染の対策をお伝えしてきました。続いては持ち込み制限と整理整頓という観点で厨房内の衛生管理方法をお伝えします。特に整理整頓がされていると清掃をしやすくし害虫の住処を奪うだけでなく、私物の持ち込みや備品の紛失といった異物混入の原因である厨房内のイレギュラーに気が付くことができるようになります。どこに何があるか管理しやすい環境を整えましょう。
(1)調理器具・備品以外の持ち込み禁止エリアの設定
店舗には調理エリアやキャッシャー、客席など様々なエリアが存在します。 飲食店営業に必要でも調理に不要なものは調理エリアには持ち込まないようにしましょう。
例えば、オーダーを取るハンディやタブレット注文用のタブレットとその充電器、紙ナプキン等は調理エリアには必要にならないでしょう。このような備品類は、調理エリアとは分けて管理スペースを設けましょう。専用の管理場所が明確になり整理整頓が進めば不用意な持ち込みが避けやすくなります。
(2)ネジ・部品などの工具類の管理方法
機器類の部品であるネジや工具類も調理エリアには不要なものです。これらは事務所や調理場から離れた休憩スペース等に整理して管理しましょう。特に、「いつか使うかも」は使わず埃をかぶってしまいがちです。小さなネジは種類ごとに保管ケースに収納し、何が何個あるかまで把握することができれば事故のリスクは最小限になるでしょう。調理時にネジの脱落等が発見された際は直ぐに使用を中止するとともに、不足備品がないかの確認を忘れないでください。また、ゆるんだネジや部品を見つけてもその場に「チョイ置き」はせず、厨房外へ持ち出し、責任者に報告させることを徹底しましょう。
(3)清掃用具と調理エリアの区分け
工具類と同様に、清掃用具も調理エリアから離れた場所で管理しましょう。これは、清掃用具が交差汚染や異物混入の原因になるためです。特に床やグレーチング、グリストラップ等は細菌や食材残渣等が溜まっており、そこを清掃した道具も同様に汚染物質が付着していると言えます。また、厨房で使用する薬剤は基本的に人体には有害ですので清掃用具を介して汚染させてしまうリスクを考えると清掃用具自体を清潔に保つこと、そしてロッカーなどで区分けして管理することもポイントです。また保管する際は、フックに吊るして管理することで生乾きを避け微生物増殖を抑え、害虫の住処にならない環境を整えることができます。
(4)日常清掃と薬剤の管理
清掃は実施するタイミングも重要です。調理中に天井付近の埃落としをしたら、料理の中に混入する恐れがあります。また、パッキンの汚れを落としたときに保管中の食材に食材カスが混入してしまうかもしれません。一方で、作業台などは都度ダスター等で拭き上げ、アルコール噴霧をして衛生的に保つ方が異物混入や微生物汚染のリスクが下げられます。したがって、清掃を実施する場所ごとにベストなタイミングは異なります。ですから、場所ごとの適切なタイミングでの清掃が重要です。
また、害虫・害獣の侵入防止の点でお話させていただいたように、床などの食材残渣は毎日清掃を実施し清潔にしていただくのが理想的です。しかし、毎日全エリアを清掃するのは忙しくて現実的ではないかもしれません。そこで、当社がお客さまへよくアドバイスさせていただいているのは、エリアごとに分けて1週間で全エリアを順番に清掃していく方法です。
この方法で運用できたなら、清掃漏れがなくなり週に1度は確実に清掃がされます。厨房の図面と清掃する曜日をわかりやすく掲示しておくと、さらに取り組みやすくなるでしょう。もちろん、1週間に1度の清掃スケジュールなので、汚れの実態と合わせ頻度の見直しは必要ですが、計画的な清掃方法のキッカケとしては有効な方法です。
また、日常清掃で漂白剤など薬剤を使用している際は、薬剤使用中であるPOPを掲示するなど目に見える警告を添付することも効果的です。2023年に飲食店で誤って漂白剤入りの水を提供してしまった事件は記憶に新しいかと思います。見た目が同じで気づかないことは誰にでも起こりうる事象です。厨房稼働中は強力な薬剤を使用しない、薬剤使用中はPOP等で誰にでもわかりやすく薬品を使用していることを明示するようにしましょう。

5.お客様による飲食物の持ち込み禁止ルールと対応
飲食店にモノを持ち込むのは従業員と業者だけではありません。フードコートをイメージしてみてください。「フードコートで購入したもの以外の飲食物の喫食はご遠慮ください」などという張り紙を見たことがあるかと思います。これには、売り上げを確保する以外にも、憲法第22条にある「営業の自由」として、他者の持ち込みを拒否する権利があること、食品衛生上の責任範囲を明確にする意図もあります。こちらについてご紹介させていただきます。
(1)お客様の飲食物持ち込みを禁止する理由
お客様の飲食物持ち込みを禁止するのは、万が一事後が起きた際に原因特定を容易にするためです。万が一持ち込みを許可したことで事故が起こった際、お客様がご自身で持ち込んだものを食べたから起こった事故なのか、調理・提供したものによる事故なのか判別することはとても難しくなります。
また、本来店舗で提供する食材には含まれないアレルゲンが持ち込まれた場合、お皿を下げる従業員や、次にその席を利用した別のお客様が被害者となるリスクもあります。アレルゲンによっては微細粉末が身体に付着しただけでアナフィラキシーショックを起こす場合もあります。このような理由からお客様の飲食物持ち込みは禁止されているのです。
(2)食品衛生法上の責任範囲と事業者のリスク
食中毒の疑いがある際に保健所は食品衛生法に基づき、店舗への立ち入り検査や営業停止処分を行う権利があります。また、食品衛生法第63条には『厚生労働大臣、内閣総理大臣及び都道府県知事は、食品衛生上の危害の発生を防止するため、この法律又はこの法律に基づく処分に違反した者の名称等を公表し、食品衛生上の危害の状況を明らかにするよう努めるものとする。』とあります。
このように食中毒が疑われる状況が発生した時点で保健所による調査と公表が入ります。たとえ原因がお客様による持ち込み品でも報道による風評被害は避けられません。また、そのような「リスクのあるもの」の持ち込みを禁止しなかった店舗側の管理責任が問われる場合もあります。
(3)持ち込み禁止の掲示方法と伝え方
飲食物の持ち込みが禁止であることは、予期しない食中毒事故を防ぐためであることを丁寧に説明し、お客様に理解していただくことが重要です。『飲食物のお持ち込みは当店のルールとして禁止しております』といったお声がけや、出入り口付近の視認しやすい場所に、「飲食物持ち込み禁止」のPOPやポスターを掲示しましょう。こうすれば最初から、「持ち込みはダメ」とお客様に周知することができます。
また、外国人観光客向けに英語や多言語による併記ができるとより多くのお客様に周知することが可能です。特に国が違えば持ち込みに対する認識に差があることは必然です。特にアジア圏ではペットボトル飲料や食べ物の持ち込みが許容されている文化があるので、適切に周知しましょう。
もし持ち込みが確認された場合は、迅速に注意を促す必要があります。持ち込まれたものは、店舗内では飲食せず、鞄にしまったままにしていただくよう対応マニュアルを整備しましょう。
(4)アレルギー対応など例外的な持ち込みへの対処法
お客様による持ち込み禁止についてお伝えさせていただきましたが、アレルギー対応食や離乳食といった、例外的な持ち込みについては店舗ごとに判断が必要となってきます。先ほどお伝えしたように原則的にはお客様による飲食物の持ち込みは禁止ですが、アレルギー対応食や離乳食は用意されていない店舗も多くあるでしょう。そのような場合、例外的に持ち込みを許可することで売上の確保やリピーター獲得が期待できます。食中毒のリスクも、未開封の市販品であれば衛生上のリスクは回避可能です。
一方で、他店でテイクアウトしたものや手作りの食品については、細菌増殖などのリスクを回避できないためお断りする方がよいでしょう。また例外的に許可されている食品を持ち込む場合も、「一声お声がけください」などとお願いすることで、特例であることを従業員にもお客様にも認識していただきましょう。
6.前編まとめ
持ち込み禁止の対象を「従業員」「外部業者」「厨房内」「お客様」の4つの視点で整理し、それぞれ具体的な禁止品と管理方法を確認しました。自社のルールと照らし合わせ、不足している視点や対象品がないかチェックしてみてください。次回は、作成したルールを現場で確実に機能させるための運用ポイントと、衛生管理体制の構築方法を解説します。

関連コラム:持ち込み禁止の運用と衛生管理体制【持ち込み禁止ルールコラム後編】
後編では、持ち込み禁止ルールを現場で定着させるための具体的な運用方法と、異物混入を防ぐ総合的な衛生管理体制の構築ポイントを解説します。
詳しくは、「コンサルティングサービス」のページをご覧ください。
こちらのコラムは コンサルティング本部 東京Eグループ 大野 智子 が担当いたしました。
コンサルティング本部では飲食サービス、給食、ホテル、冠婚葬祭などの事業を営むお客さまに対し厨房の衛生点検や、品質管理システムの構築支援、従業員教育などのサービスをご提供しています。 年間40,000店舗以上の点検実績をもとにした衛生コンサルティングサービスにより、お客さまと共に消費者の安心と安全に貢献しています。






