
食品取扱業務では、従業員の検便結果が重要な安全管理の一環となります。では、検便で陽性結果が出た場合、どのように対応すればよいのでしょうか。
本コラムでは、陽性が確認された場合の対応手順と注意点について詳しく解説します。
1.検便で陽性結果が出た時の対応
(1)サルモネラ属菌陽性時(チフス菌、パラチフスA菌除く)
1.陽性者への通知と作業停止
担当者は陽性結果を本人に伝え、直ちに調理や食材に触れる作業から外します。
(速報等の報告書のコピーを本人に渡す事が望ましい)
2.医療機関の受診
陽性者には医療機関を受診してもらい、医師の指示に従います。
3.再検査・職場復帰
治療終了後に再検査を行い、陰性判定が出たら職場復帰が可能となります。
(1回の陰性判定だけでは復帰とせず、2回連続で陰性となって復帰すると決められている職場もあります )
(2)腸管出血性大腸菌(O157等)、チフス菌・パラチフスA菌、赤痢菌陽性時
1.陽性者への通知と作業停止
担当者は陽性結果を本人に伝え、直ちに調理や食材に触れる作業から外します。
(速報等の報告書のコピーを本人に渡す事が望ましい)
陽性者の出勤状況や作業エリアを確認し消毒を行います。
陽性者、家族、他の作業者に自覚症状がないか聞き取りを行います。
2.医療機関の受診
陽性者には医療機関を受診してもらい、医師の指示に従います。
3.保健所への報告・自宅待機
腸管出血性大腸菌感染症、腸チフス、パラチフス、細菌性赤痢などの三類感染症の場合は医師から保健所に報告が義務付けられていますが、本人からも保健所に連絡し、指示を仰ぐことが望ましいです。
4.再検査・職場復帰
治療終了後に再検査を行い、陰性判定が出たら職場復帰が可能となります。
(1回の陰性判定だけでは復帰とせず、2回連続で陰性となって復帰すると決められている職場もあります )
三類感染症は、感染力やかかった場合の重症度からみると危険性が非常に高いとはいえませんが、感染者が飲食物を取り扱う業務等に従事することによって他者への感染を起こす可能性があるとされるものです。そのため、三類感染症と診断された患者及び健康保菌者は、感染症法により菌の陰性が確認されるまでの間は、飲食物に直接触れる業務につくことが制限されます。
特にO157などの腸管出血性大腸菌(EHEC)はわずか50個~100個という少ない菌量で感染することがあります。疾病のまん延防止のために、陽性者が出た際にその職場全体で再度検便を行い、他の従業員が陰性であることを確認される職場もあります。
(3)ノロウイルス陽性時
1.陽性者への通知と自宅待機
担当者は陽性結果を本人に伝え、直ちに自宅待機させます。
2.必要に応じて医療機関を受診
3.再検査・職場復帰
約1週間後を目安に再検査を行い、陰性判定が出たら職場復帰が可能となります。
(1回の陰性判定だけでは復帰とせず、複数回陰性となって復帰すると決められている職場もあります )
ノロウイルスは感染力が強く、10個~100個程度のウイルス量で感染し、生活環境中(ドアノブ、カーテン、リネン類、日用品など)からもウイルスが検出されることがあります。ノロウイルスはアルコールではほとんど不活化されないことから、感染者が発生した場合は周辺環境を次亜塩素酸ナトリウムや亜塩素酸水などを用いて消毒しましょう。
<主な感染症とその特徴>
検便で対象とする代表的な病原菌と、その特徴を以下にまとめます。
サルモネラ属菌
鶏卵や生肉などから感染し発熱や下痢、腹痛が主な症状で、特に免疫力が低下している人では重症化のリスクがあります。
サルモネラ属菌は自然界のあらゆるところに生息し、鳥類、爬虫類、両生類などが保菌しているため、ペットからの感染例も多くあります。
腸管出血性大腸菌(EHEC)
主に牛肉や生野菜などから感染し、激しい腹痛や血便を伴うことがあります。感染力が強く、重症化すると溶血性尿毒症症候群(HUS)を引き起こす可能性があります。
ノロウイルス
主に二枚貝から感染し、冬季に増加します。ヒトからヒトへの感染や、調理器具から他の食材への二次汚染も多く発生します。おう吐や下痢、腹痛が主な症状です。ノロウイルスには治療薬がなく、治療は対症療法に限られます。
2.食中毒を起こさせないための予防
従業員の体調や衛生管理の甘さを原因として食中毒菌等の保菌者となることがあります。
以下の予防策を徹底しましょう。
(1)食中毒予防三原則
菌を「つけない」:手洗いの徹底 器具の洗浄・消毒
菌を「ふやさない」:食材の適切な保存や迅速な調理
菌を「やっつける」:十分な加熱調理
(2)定期的な検便の実施
従業員の健康保菌者を確認するために、検便は定期的に行いましょう。特に新しい従業員の採用時や食中毒リスクが高まる時期を重点的に実施することが推奨されます。 夏季は月2回実施する職場もあり、冬季(10月~3月)はノロウイルス検査も含める事が望ましいでしょう。
(3)従業員教育の徹底
食品を扱う上での衛生管理や感染リスクについて、日常的に教育を行うことが重要です。
特に日々できる感染対策としては、手洗いと食事が重要です。適度に正しく手洗いをすることが感染予防としての要になってきます。流水と石鹸による手洗いと速乾性手指消毒薬を使い分け、正しい手順で手洗いが出来ているかを見直してみましょう。

肉や卵は火をよく通し、生食を避け、消費期限をよく確認しましょう。肉と野菜を調理する際はまな板を使い分け、交差汚染を防ぐことも重要です。

3.その他の留意点
・症状がない場合でも医療機関の受診を
無症状でも健康保菌者である場合、感染源となる可能性があります。検便検査により陽性が判明した場合は医療機関を受診するようにしましょう。
・調理業務以外なら従事可能か?
感染リスクの観点から、保健所や医師の指示に従う必要がありますが、一般的に食品や食材に触れない業務であれば許可される場合があります。
・家族への対応
家族が同じ病原菌に感染するリスクを防ぐため、食器等の共用を避け、共用物品の消毒を徹底しましょう。
4.検便検査の必要性
検便検査は、以下の理由で重要な役割を果たしています。
1.健康保菌者の確認
2.食中毒事故の発生時に原因を特定することで、感染拡大を防止
3.従業員自身の健康管理と安心感の向上
特に食品取扱業務では従業員一人ひとりの健康が事業全体の信頼性に直結するため、検便の定期的な実施が欠かせません。
<腸チフスのメアリー>
健康保菌者の一例として有名な話に“腸チフスのメアリー”という話があります。ニューヨークで家政婦として働いていたメアリー・マローン(1869~1938)は、腸チフスの健康保菌者でした。その為、彼女が雇われた家庭で次々に腸チフスの感染者や死者が発生しました。
この事例から、感染しても症状は現れない健康保菌者が周りに感染を広げる可能性があるということが分かり、検便をはじめとした衛生の意識を高めるきっかけとなりました。
5.検便検査に関連する法律
検便検査が必要な根拠は法律やルールにも示されています。
食品衛生法
従事者の健康管理に注意し、食中毒の原因となる疾患または飲食物を介して伝染する恐れのある疾患に感染したときは、食品の取扱作業に従事させないこと
感染症法
腸管出血性大腸菌感染症、細菌性赤痢、腸チフス、パラチフスなどの患者及び無症状病原体保有者(健康保菌者)は食品に直接接触する業務に携わることが制限される。
大量調理施設衛生管理マニュアル※
調理従事者は定期的な健康診断、及び月に1回以上の検便を受けること。検便検査には腸管出血大腸菌の検査を含めることとし、10月から3月までの間には月に1回以上又は必要に応じノロウイルスの検便検査に努めること
(※同一メニューを1回300食以上又は1日750食以上を提供する施設の調理従事業者についての規定)
学校給食衛生管理基準
検便は、赤痢菌、サルモネラ属菌、腸管出血性大腸菌血清型O157その他必要な細菌等について、毎月2回以上実施すること。ノロウイルスを原因とする感染性疾患による症状と診断された 学校給食従事者は、高感度の検便検査においてノロウイルスを保有していないことが確認されるまでの間、食品に直接触れる調理作業を控えさせるなど適切な処置をとること。
水道法施行規則
定期の健康診断は、おおむね六箇月ごとに、病原体がし尿に排せつされる感染症の患者(病原体の保有者を含む。)の有無に関して、行うものとする。

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6.まとめ
検便で陽性結果が出た場合、食中毒を発生させないよう迅速な対応と予防策の徹底が重要です。陽性となった検査項目に応じて、対応をすべき手順が異なります。それぞれの手順に沿って対応しましょう。当社BMLフード・サイエンスでは検便検査はもちろん、検査で陽性になってしまった場合のご相談対応、食中毒の発生予防のための検査やコンサルティングのサービスを提供しています。厨房や製造ライン等における動線、設備やトイレといった環境に潜んでいる感染リスク対策は弊社の食品衛生コンサルタントにぜひご相談ください。
詳しくは、「コンサルティングサービス」のページをご覧ください。

こちらのコラムは 検査本部 埼玉・腸内細菌グループ が担当いたしました。