
飲食店の調理現場には、食中毒や異物混入等、トラブルを引き起こす様々なリスクが存在します。特に微生物による食中毒は目に見えるものではないため、提供する食品への汚染リスクや、その対策の有効性を現場で判断することは容易ではありません。
本コラムでは、このような場面に役立つ、微生物の「環境検査」について解説します。
1.環境検査とは
微生物は、空中や土壌、皮膚等、至るところに存在しています。そのため、食品は製造施設や飲食店の厨房等、様々な環境で微生物汚染を受ける可能性があります。厚生労働省 令和6年 原因施設別食中毒発生状況によると、食中毒発生の約半数は飲食店であり、調理現場における食中毒対策は必要不可欠です。

<厚生労働省 令和6年 原因施設別食中毒発生状況、施設別発生状況より作成>
調理現場においては、食品が食中毒菌に汚染されていないか、品質の指標となる菌数に異常が無いかなど、特性に合わせた「食品の微生物検査」を行うだけでなく、ドアノブやまな板、手指等、食品を取り扱う環境に汚染リスクがないか、目に見えない微生物を可視化して現場の衛生状態を科学的に把握することが食中毒の予防に有効です。このような検査を「環境微生物検査」といいます。
主な環境微生物検査として、「拭取り検査」、「落下菌検査」、「ノロウイルス拭取り検査」があります。
2.拭取り検査
拭取り検査は、厨房や食品製造、加工場で用いられる器具、環境および従業員の手指などの細菌・カビ等の汚染状況を調べるための検査です。この検査では、検査対象の一定面積を拭取り用の綿棒で拭き取り、表面に付着している微生物を測定します。
調理施設で発生する食中毒の原因のひとつに「二次汚染」があることをご存じでしょうか。 食品安全委員会によると「二次汚染とは、調理器具(包丁、まな板等)や人間の手を介して、ある食品(肉、魚等)から別の食品(野菜等)に微生物が移行すること」と定義されています。※1
1997年に発生した学校給食で提供された「茹で野菜のピーナッツ和え」による食中毒の事例を紹介します。この事例では、鶏卵を撹拌したミキサーを介してピーナッツ和えが汚染されたことが推測されており、ミキサーの洗浄・消毒不足によって食中毒菌であるサルモネラ属菌が残存したことが食中毒の原因と推察されています※2
このように、調理施設の環境中には二次汚染を引き起こすリスクがあります。
調理器具や調理環境を対象として拭取り検査を行うことでこのような細菌の存在を把握することができ、二次汚染による食中毒に対して対策を講じることができます。
また、一般生菌数や大腸菌群などの衛生状態を判断する指標となる菌を測定することで、調理現場や手指等の洗浄の程度を確認することができます。そのため、従業員の教育ツールや衛生意識の向上、正しい手洗いの確認にも有効です。
3.落下菌検査
落下菌検査は、空中に浮遊する微生物を確認する検査の一種です。この検査では、一定時間に落下した微生物を捕集することで、空中に浮遊している細菌やカビの菌数を測定します。そのため、調理・製造現場での清潔度を評価するためのモニタリング調査に有効な検査です。
この検査では、落下菌の採取時間やサンプリング位置を適切に設定し、測定条件を揃えることが重要です。
例えば、厚生省(現厚生労働省)通知「弁当及びそうざいの衛生規範」(現在は廃止)では次の表のように測定条件が規定されていました。

参考:厚生労働省通知「弁当及びそうざいの衛生規範について」(昭和54年6月29日付け、環食第161号)(令和3年6月1日付けで廃止)
このように、条件を適切に設定することで、細菌の発生予防や空調設備の改善、清掃方法の見直しなど、衛生管理に役立てることができます。
4.ノロウイルス拭取り検査
ノロウイルスによる食中毒は、冬期に多発し、年間食中毒患者数の約5割を占めるとされています。また、近年では、令和6年、令和7年ともに、発生原因として嘔吐・下痢等の症状のない無症状の調理従事者を介した食中毒も多く報告されています。※3
そのため、ノロウイルス食中毒の対策は、どの食材を扱う飲食店においても避けられない課題となっています。
ノロウイルス拭取り検査は、環境中のノロウイルスの汚染実態を確認する検査です。この検査では、床やドアノブ等、検査対象を拭取り用の綿棒でまんべんなく拭き取り、ノロウイルスの有無を測定します。測定結果により、検査対象のノロウイルス汚染の有無や、嘔吐物処理後のノロウイルス残存の確認ができるため、ノロウイルス食中毒の対策として清掃が行き届いているかを確認するツールとして有効です。
拭取り検査の事例として、トイレを対象とした検査では、便器や便座だけでなくドアノブや床等広範囲でノロウイルスが検出されています。また、調理従事者が調理室内シンクで嘔吐した場合には、シンクの内壁や排水溝のほか、冷蔵庫取手等でもノロウイルスが検出されています。※4
このようにノロウイルスは、排便後の手を介した二次汚染や嘔吐物の飛散により広範囲に拡散されます。局所的な清掃では、ノロウイルスが残存する可能性があるため、清掃が行き届いているかを確認することが重要です。
ノロウイルス感染は一年を通して発生しますが、特に冬季を中心(10月~3月)に流行する特徴があります。ノロウイルス感染の流行に合わせて、調理環境中への汚染がないか、適切な清掃対応ができているかをノロウイルス拭取り検査で確認してみてはいかがでしょうか。

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5.その他の環境検査
他にも、リステリア属菌検査等、上述の検査以外に調理している食材や製造環境の特性に応じて環境検査として実施される検査項目は多様です。
また、微生物検査以外にも、ATP拭取り検査で環境検査を行う場合があります。この検査では、微生物の数や存在ではなく、有機物に含まれるATP(アデノシン三リン酸)を汚れの指標とします。拭き取ったその場で検査結果が得られることに加え、汚れの度合いを数値化することができるため、調理現場において、その場で洗浄効果を確認し、従業員の洗浄・清掃意識の向上や改善に役立てることができます。

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6.最後に
BMLフード・サイエンスでは多くの食品関連事業者様から環境検査のご依頼を承っており、多くの実績があります。一般生菌数や大腸菌群、大腸菌等の衛生指標菌はもちろん、サルモネラ属菌や腸炎ビブリオ等、特定の菌種の検査も対応が可能です。また、拭取り検査だけでなく、落下菌検査やノロウイルス拭取り検査、リステリア属菌検査等、数多くの検査を行っております。専門の教育を受けたスタッフが迅速、正確に検査を行っており、検査結果はWEB報告サービスによって郵送のタイムロス無く受け取ることができます。検査結果に対しアクションが必要な場合は、経験豊富なコンサルタントによるアドバイスを受けることが可能です(別途有料での対応となります)。
BMLフード・サイエンスは、食品の微生物・理化学検査をはじめ、商品の品質検査、飲食店の厨房衛生点検、食品工場監査、衛生管理・品質管理の仕組みづくり、食品安全認証の取得支援まで、ワンストップでサービスを提供できる総合コンサルティング企業です。 長年培ってきた高度な検査技術とノウハウをもとに、質の高い各種検査とコンサルティング事業体制を構築しており、全国を網羅したネットワークにより、スピーディなサービスを提供します。
詳しくは、「コンサルティングサービス」のページをご覧ください。
参考文献
- ※1 食品安全委員会HP「用語集」
:https://www.fsc.go.jp/yougoshu.html - ※2 文部科学省:調理場における洗浄・消毒マニュアルPart2、
第5章 調理器具の洗浄・消毒が不十分なために発生した学校給食における食中毒事例
:https://www.mext.go.jp/a_menu/sports/syokuiku/1292023.htm -
※3 厚生労働省通知「ノロウイルスによる食中毒の予防について」(令和7年10月16日付け、健生食監発1016第1号)
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※4 拭き取り検体からのノロウイルス遺伝子検出状況(宗村佳子ほか、平成29年)
こちらのコラムは 検査本部 福岡グループ が担当いたしました。
検査本部では全国4か所の検査拠点にて腸内細菌検査、食品微生物検査、食品理化学検査サービスの提供を行っています。 国内最大級の検体処理数の腸内細菌検査をはじめ、お客さまのニーズに応じた迅速・正確な検査の実施により、お客さまに信頼され、選ばれるサービスの提供を行っています。








