食品の安全性は私たちの健康にとって重要なテーマです。しかし、食品に関する危険な細菌の一つであるリステリア・モノサイトゲネスについては、日本ではあまり知られていません。このコラムでは、リステリア食中毒の原因菌であるリステリア・モノサイトゲネスとはどのような細菌なのか、どんな症状を引き起こすのか、また、注意する必要のある食品やその取り扱いについて解説します。
1.リステリア・モノサイトゲネスとは
リステリア・モノサイトゲネスは、土壌や水、動物の腸内などに広く存在する細菌です。この細菌が食品を介して人に感染すると、リステリア食中毒という感染症を引き起こします。リステリア属には8菌種がありますが、人に病気を起こすのはリステリア・モノサイトゲネスだけです(食品安全委員会, 2019)。
(1)リステリア・モノサイトゲネスの特徴
リステリア・モノサイトゲネスは、通性嫌気性で芽胞を形成しないグラム陽性短桿菌であり、20-30℃で鞭毛による運動性を示します。また、4℃以下の低温や、12%食塩濃度の高塩下でも発育することができます。そのため、冷蔵保存された食品や塩分を多く含む加工食品などにも生存し、増殖することが可能です。リステリア・モノサイトゲネスは、細胞内寄生性の細菌であり、マクロファージなどの免疫細胞に取り込まれても死滅せずに脱出、増殖し、細胞間を移動することができます。このようにして体内に広がり、敗血症や髄膜炎などの重篤な症状を引き起こすことがあります。
(2)リステリア食中毒とリスク
リステリア食中毒は、一般的には軽度の胃腸炎や発熱などで治ることが多いですが、場合によっては重篤な合併症を起こすことがあります。特に高齢者や免疫力の低下した人、妊婦や新生児などは感染のリスクが高く、注意が必要です。妊婦は自分自身は無症状であっても胎盤を通して胎児に感染させることがあり、流産や早産、死産などの危険性があります。新生児は出生後に感染することもあります。また、敗血症や髄膜炎などの重篤な症状を引き起こすこともあります。
(3)日本におけるリステリア食中毒の認知度は?
日本では、リステリア食中毒はあまり知られていないといえます。これは、日本で発生するリステリア食中毒の患者数が少なく、報告義務もないためです。しかし、実際には潜在的な感染者数は知られているよりもっと多い可能性があります。欧米では、リステリア食中毒は重大な食品感染症として認識されており、厳格な監視や管理が行われています。日本でも、リステリア食中毒の予防や対策に関する意識を高める必要があります。
(4)リステリア食中毒で気を付けるポイント
リステリア食中毒に気をつけなければならない点は、主に二つあります。
一つ目は、リステリア・モノサイトゲネスは低温でも増殖可能であることです。一般的には、冷蔵保存された食品は細菌の増殖を抑えることができますが、リステリア・モノサイトゲネスの発育温度域は0℃〜45℃と広く、低温でも発育増殖できる特徴があります。そのため、冷蔵保存された食品でも安心してはいられません。
二つ目は、リステリア・モノサイトゲネスは、高塩下において耐性があるため、チーズやハムなどの加工食品にも生存し、増殖することができます。
2.リステリアの原因食品:RTE食品とは?
RTE(Ready To Eat)食品とは、加熱や調理なしでそのまま食べられる食品のことです。例えば、チーズ(加熱殺菌していないもの)、サラダ、 生ハムなどがRTE食品にあたります。RTE食品のメリットは、時間や手間をかけずに食事ができることや、様々な種類や味が楽しめることです。保存期間は比較的短く設定されますが、加工食品が多く、便利でおいしい食品であり、これからの現代日本において増えていくであろう食の形態といえます。一方で、加工過程や流通過程でリステリア・モノサイトゲネスに汚染された場合に加熱などによって殺滅する機会のない商品でもあります。
リステリア・モノサイトゲネスに気をつけたいRTE食品は上記に挙げた加工食品のほか、以下のようなものが挙げられます。
- 生鮮野菜:レタスやキャベツなどの葉物野菜など
- 生魚介類:魚介類加工品、魚卵製品(明太子、筋子、たらこ)など
- 冷凍食品:アイスクリームや冷凍デザートなど
これらの食品を摂取する場合は、消費期限や保存方法に注意し、可能な限り早く食べるようにし、妊婦や免疫力の低下した人は、可能な限りこれらの食品を避けることをおすすめします。
3.リステリア・モノサイトゲネス検査の必要性
リステリア・モノサイトゲネスは、食品製造工場や流通過程の環境中に存在しており、製造や流通の際に汚染されることがあります。食品検査を行うことが、リステリア・モノサイドゲネスの汚染状況を知り対策を取ることで、安全性の確保や事故の防止につながります。
また、リステリア・モノサイドゲネスは前述の通り環境中に存在するため、製造工場や設備の定期的な環境検査も管理のためには重要です。環境検査によって清掃や消毒の効果を確認し、必要に応じて対策を講じることが必要です。
(1)リステリア自主検査について(BFS)
通知法による定期的な検査は、費用面や検査期間の長さの問題から実施が現実的ではありません。
BMLフード・サイエンスでは、リステリアの自主検査を取り扱っており、2023年6月からは、通知法の検査よりも迅速に陽性結果を確定できる「ALOA One Day法」の受託を開始しました。
ALOA One Day法は国際的に認められた検査法であり、食品だけでなく拭き取り検査にも適用できます。
定期的なリステリア検査を実施することは、消費者やビジネスパートナーにとっての安全性や信頼性に繋がります。
4.リステリア食中毒を予防するために
(1)厨房での食品の扱い方
厨房での食品の扱い方は、衛生管理において非常に重要です。工夫することで、リステリア食中毒の予防に役立ちます。
厨房での食品の扱い方について3つのポイントを紹介します。
①保管温度と加熱時の温度に注意しましょう。
RTE食品を保存する際は、保管温度をできる限り低くしてリステリア・モノサイドゲネスの増殖を抑えましょう。もし長期間保存したものなど、汚染が心配される場合には、通常の加熱調理を加えることでリステリア・モノサイドゲネスを死滅させることができます。調理に利用して喫食されることをおすすめします。
②食品の期限を守りましょう。
ナチュラルチーズや生ハム、スモークサーモンなどの加熱調理が不要なRTE食品は、開封したものは期限にかかわらず、早めに使い切るようにしてください。製品の賞味期限や消費期限を必ず守るようにしましょう。
③調理器具の取り扱いに注意しましょう。
生肉や生魚などの生ものと、加熱した食品や乳製品などの加工食品は、別々のまな板や包丁を使用しましょう。使用後は熱湯で洗浄し、乾燥させ、清潔を保ちましょう。
食品の扱い方に気を付けて、より安全な食品提供を心がけましょう。
(2)厨房の衛生管理の徹底と食品衛生専門のコンサルタント
食品を安全に提供するために、厨房の衛生管理は必要です。定期的に清掃や消毒を行い、温度や湿度を適切に管理することなどが求められます。
しかし、厨房の衛生管理は、自己判断や経験だけでは不十分です。食品衛生に関する法律や基準、情報は変化し続けるため、専門的な知識や技術が必要です。そこで、食品衛生専門のコンサルタントと一緒に取り組むことがおすすめです。コンサルタントは、厨房の現状を客観的に分析し、改善点や問題点を指摘してくれます。また、最新の法律や基準に沿った、実践的な指導やアドバイスを行ってくれます。コンサルタントと徹底して取り組むことで、厨房の衛生管理を向上させることができます。
5.まとめ
このコラムでは、リステリア食中毒の原因となるリステリア・モノサイトゲネスの特徴やリスク、原因食品として挙げられるRTE食品などについて解説しました。
リステリア・モノサイトゲネスは、低温や高塩分にも耐える細菌であり、冷蔵保存された食品や加工食品にも存在することがあります。特に、妊婦や高齢者などは重篤な合併症を起こす可能性が高いため、注意が必要です。日本では、リステリア食中毒はあまり知られていませんが、欧米では重大な食品感染症として認識されています。私たちは、RTE食品を含めた食品の安全性に関する知識を高め、適切な保存や加熱を行うことで、リステリア食中毒の予防に努める必要があります。
BMLフード・サイエンスでは、食品衛生のコンサルティングを行っております。 厨房や工場の点検、監査から、関連法規に照らした食品等の表示確認、品質管理の仕組み構築や教育研修など、多種多様なサービスを提供しており、異物混入を防ぐための品質管理システムを構築支援することも可能です。詳しくは、「食品コンサル」のページをご覧ください。